第48章 満たされぬ心
「ひどいことを申し上げていると重々承知しております。ですが、結華様がお産まれになってもう五年、このまま御館様にお世継ぎがお産まれにならねば、織田家の、ひいては天下の、先行きが危ぶまれまする。奥方様はまだお若いゆえ、今後、御子様もまたお産まれになるやも知れませぬが……奥方様お一人でお世継ぎを産まねばならぬ重圧に、この先も耐えていかれるのは、お辛くはございませぬか?」
「っ…………」
「御館様は我らの進言はお聞きになりませぬ。
奥方様を深く愛しておられるゆえ、自ら他の女子を傍に置かれることはないでしょう。
正室の許可がなければ、側室を推挙することは叶いませぬ。
織田家の未来をお考え頂き、どうか我らの願い、お聞き届け下さいますよう…伏してお願い申し上げまする」
家老達が一斉に頭を下げて平伏する様を、呆然と見下ろすことしか出来ず、何と声をかけてよいかも分からなかった。
気がつけば自室に一人ぼんやりと座ったままだった。
家老達の姿は既になく、いつ退室し、どうやって見送ったのかも全く覚えがなかった。
立ち上がろうとして、クラッと目眩に襲われ、その場に座り込んでしまう。
下腹部にドロリと経血が流れ出る嫌な感触がしたかと思うと、同時に腰が重く痛み、全身の血が足下まで下がり落ちるような心地になった。
貧血で頭に血が回っていないのか…立ち上がろうとするのだが、上手くいかない。
不甲斐ない自分が忌々しく、情けない気持ちになる。
「っ………」
ふと、頬に冷たいものを感じる。
涙? あぁ、泣いているんだ、私。
これは、身体の痛みの涙なのか、心の痛みの涙なのか…
それすらも分からず、流れ落ちる涙もそのままに、私は暫くの間、その場を動くことができなかった。