第48章 満たされぬ心
翌日、城下へ出かける信長様と結華を見送る為に城門前まで一緒に出ていくと、そこには当然のように秀吉さんが待っていた。
「御館様っ、今日は正月で人出も特に多いですからね、くれぐれも気をつけて下さいよ!…やっぱり俺もお供を…」
「だめ〜、父上と二人で行くんだからっ!秀吉はついて来ちゃダメ!」
「っ…そんな…結華様〜」
「お土産買ってきてあげるから、待っててね!」
「は、はいっ!」
「くくくっ…」
結華に振り回されて情けない顔になる秀吉さんを見て、信長様は笑いが止まらないみたいだ。
「信長様、行ってらっしゃいませ!
結華、父上の言うことをよく聞いて、いい子にするのよ」
「はいっ!母上、行ってきます!」
楽しそうに手を繋いで城下へと降りていく、仲睦まじい二人の様子を、微笑ましいような、少し羨ましいような、複雑な気持ちで見守っていると、秀吉さんが声をかけてくれた。
「子供の成長ってあっという間だな…結華はほんと御館様によく似て…絶対、美人になるぞ〜」
「ふふっ…」
「さぁ、朱里も久しぶりに一人の時間ができたんだから、ゆっくり休めよ。最近、疲れてるだろ?」
秀吉さんはいつも優しい。私のことも結華のことも、いつも気遣って見ていてくれる。
実の兄とは嫌な思い出しかない私にとっては、秀吉さんが本当の兄のようなものだ。
「……秀吉さん、いつもありがとう」
「ん…困った時は、なんでも言ってくれよ?」
信長様にも秀吉さんにも心配してもらって…私は幸せだと思う。
家康や政宗、光秀さんや三成くんも、いつだって私や結華を見守っていてくれる。
………なのに
幸せなのに、満たされない
心に穴が空いてしまったかのように 満たされない
私は欲張りなんだろうか
信長様は私だけを見てくれるのに
信長様との愛の証しも既に手にしているというのに
もっと欲しい もっと愛してほしい
信長様との確かな繋がりが欲しい
もっと もっと
満たされない 胸が苦しい