第46章 男と女
「そういえば…明日は長浜の城下で夏祭りがあるのですよ。安土の祭りに比べれば小さなものですが、夜には湖畔で花火も上がる予定です。
……久しぶりに朱里と二人で出かけられてはいかがですか?
もちろん、護衛は付けさせて頂きますが…」
長浜は秀吉に与えた地で琵琶湖畔にあり、安土からも、そう遠くはない。
「祭りに花火か…朱里が喜びそうだな。
秀吉、貴様も供をせよ。長浜には久しく戻っておらんだろう?」
「あ、ありがとうございます、御館様っ!では、長浜城にも寄って下さいませ!あっ、いや、それならいっそ一晩泊まって下さいっ!その方がゆっくりできますよ!あぁ、早速、城の者におもてなしの用意をするように言わねば……」
「はぁ……秀吉、煩い…少しは落ち着け」
急遽、長浜行きが決まり、一人慌て始めた秀吉の様子に呆れながらも、俺自身も自然と心が浮き立つのを抑えられなかった。
(二人で出かけるなど、何時ぶりであろうか……子ができたら、こんなにも二人きりの時間がなくなるとは、思ってもみなかった…)
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その夜、天主にて〜
湯浴みを済ませた後、結華を抱いて天主へと戻る。
最初の頃は、柔らかく頼りない様子の赤子を風呂に入れるのに戸惑っていた俺も、今ではすっかり手慣れたもので、一人でも易々と結華を風呂に入れられるようになっていた。
「お帰りなさい、信長様、ありがとうございます」
先に湯浴みを済ませて夜着姿になっている朱里に、結華を託す。
その際に、夜着の袷から溢れんばかりの豊かな胸元が自然と目に入ってしまい、いつになく動揺する。
湯浴みで火照った身体が、更に熱を帯びたかのように熱い。
「……?どうかなさいました?」
「………いや、別に…」
昨夜から中途半端に煽られたままになっている欲が、再びじんわりと湧き上がってくるようで、慌てて視線を逸らす。
(くっ…朱里を抱きたくて堪らん…だが…また昨夜のようになるのは…きつい…)
もやもやと思い悩んでいる間に、朱里は結華の着替えを済ませ、あやしてやっている。
ニコニコと機嫌の良い様子を見ていると、こちらも穏やかな気持ちになってくるから、子とはやはり不思議なものだ。