第45章 追憶〜家康編
「っ…強くなろうと頑張ってきたのに…結局、自分一人じゃ何もできないんだ。また周りに流されて…俺はいつまで経っても、三河の為に何もできない。
っ…俺がっ…弱いからっ…」
「人質とはそういうものだ。己の意思など尊重されない。力のある者の為に利用されるのみ。それが嫌なら、その境遇から自ら這い出るしかないのだ」
「くっ…信長様には、俺の気持ちなんか分からないっ!」
「ああ、分からん。己の運命を嘆いて子供のように泣いている貴様の気持ちなど知ったことか」
「泣いてないっ!」
「…竹千代、この世は自らの意思で動かすものだ。力ある者に従わされるのが嫌なら、もっと強くなれ。
技を磨き、力をつけ、自らの足で戦場に立て。
今川に移っても、鍛錬を怠るな。
機を待ち、機に備えよ。
その時は必ず来る。それを逃すでない。
貴様は自分が弱いことを知っている…それが貴様の強さだ」
「信長様…」
「しばしの別れだ…じきにまた会える…戦場でな」
そう言って笑った信長様の笑顔を俺は一生忘れない。
「さて、久しぶりに遠乗りにでも行くか?尾張の風景も見納めだぞ?……貴様が次に帰るのは、ここではない…三河だからな」
何気なく言われたその言葉に、ハッとして顔を上げると、信長様は早くも、繋いであった愛馬の方へすたすたと歩いていた。
「竹千代、早く来い!置いていくぞっ!」
一度だけ振り向いた信長様は、そう言うと、また背を向けて歩き出す。
俺は無言で、その大きくて広い背中を夢中で追いかけた。