第45章 追憶〜家康編
ニヤニヤと笑いながら、信長は徐に家康の頭に手を伸ばし、その柔らかな猫っ毛をクシャクシャと撫でた。
「!??ちょっと!いきなり何すんですか??」
(っ…ほんと、この人…訳分かんないな…)
信長はまだニヤニヤと笑いながら、振り払われた自身の手を面白そうに見ている。
「くくっ…こうしておると昔を思い出すな…貴様にとっては、思い出したくもない嫌な過去かもしれんが…」
「……いえ…」
幼い頃の人質生活
家臣に裏切られ、強引に連れてこられた尾張国
父母と引き離されて、頼る人もいない
寂しくて不安で…でも負けたくなくて…
そんな時、俺はこの人に出逢ったんだ
破天荒で滅茶苦茶で周りの目なんて全然気にしない人
刃のように鋭く人の心に斬りつける…でも本当は誰よりも優しい慈愛の心を持っている人
この人に出逢わなかったら、俺は今、きっとここにはいない
あの日から、俺はずっとこの人の背中を追っているのかもしれない
大きくて広くて、迷いなく真っ直ぐ前を向く背中
追いつきたくて、強くなる為に必死に鍛錬を重ねてきた
この先もずっと、この人と同じものを見ていきたかったから…
『竹千代、早く来い!置いていくぞっ!』
遠い昔に聞いた、今と変わらぬこの自信たっぷりに俺を呼ぶ声が再び聞こえた気がして……
家康は一人、追憶の渦の中に身を委ねていくのだった。