第45章 追憶〜家康編
それからは、私と結華は昼間は本丸御殿の自室で過ごし、夜は天主で信長様と三人で過ごすようになった。
相変わらず、結華はまとまって寝ない子で、ようやく寝たと思ったら、またすぐ起きて泣き出す、そんな繰り返しだった。
けれど……自室で子育てするようになってからは、結華が泣き出すと、その声を聞きつけて必ず誰かが様子を見に来てくれるようになった。
「おぎゃあ おぎゃあ あぁ…あぁ」
「おっ、結華〜どうした?腹、減ってんのかぁ?早く大きくなれよ〜美味いもん、一杯食わしてやっからなぁ」
「政宗っ!」
「朱里、体調どう?ちゃんと眠れてるの?」
「家康も来てくれたの?ありがとう。うん、大丈夫だよ。夜は信長様も手伝ってくださるから」
「……あの人が赤子のむつきを替えてる姿、いまだに想像できないんだけど。………まぁ、昔から子供の扱いは上手かったけどね…」
「ん?あぁ、家康は、信長様とは子供の頃からの付き合いだったっけ?」
「……うん、まあ…」
目線を逸らし、言葉を濁す家康の様子に、おやっ?と思う。
(珍しいな、こんな家康。子供の頃の話、あんまり聞かれたくないのかな?二人の昔の話、聞いてみたいけど…)
「賑やかだな…政宗と家康が来ておるのか?」
一瞬気まずくなった部屋の空気を打ち消すように、スパンっと勢いよく襖が開いて…愛しい人の声が聞こえる。
「「「信長様っ!」」」
「……朱里、結華は?」
「あっ、えっと……あ…お腹が空いてるみたい…私、ちょっとお乳をあげてきます」
そう言うと、結華を抱いてそそくさと隣の部屋へ入っていく朱里
あとに残された男三人
「さぁ、俺は朱里に美味い昼餉でも作ってやるか〜」
政宗は早々に立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
「……信長様、この時間は政務中じゃなかったんですか?」
「……休憩だ」
平然と言う信長をチラッと横目で見て、家康はやれやれと思いながら、信長に聞こえないように小さな溜め息を吐く。
(はぁ…また勝手に抜けてこられたんだな。秀吉さんの慌てっぷりが想像できる…はぁ…面倒くさ…)
「………言いたいことがあれば、言え」
「別に…」
「ふっ…そうやって言いたいことも言わんと溜め込む、貴様の悪い癖だぞ……昔から変わらんな」