第44章 生命(いのち)
「名前…考えないといけませんね」
「ん?」
「この子の名前…お七夜までに考えてあげないと…」
「いや、名前ならもう考えてある」
「えっ?そうなんですか?」
(さすが信長様、やることが早いっ)
「男なら俺の幼名と同じ吉法師にするつもりだった。男子は元服すれば名が変わるしな。だが、女子の名は生涯変わらぬ大事なものだ。だから…色々と迷ったのだが…」
(子の名前をそんな風に考えて下さっていたなんて…)
驚く私をそのままに、懐から綺麗に折り畳まれた和紙を大事そうに取り出して、丁寧に広げていくと……
『 命名 結華(ゆいか) 』
信長様の、流れるような美しい字で書かれた子の名前。
「『結華』…良い名ですね」
「こやつは、俺と貴様を結び繋げる、かけがえのない存在だ。それと同時に、俺が造る平和な世の中で、周りの人間を結びつけて皆を幸せにしていくような子になってほしい……そう願い、考えた名前だ。どうだ?」
「ありがとうございます…良い名を頂けて、この子は幸せ者です。私も…今、すごく幸せです」
「ん…俺も…幸せ、だぞ?…千代に怒られてでも外で待った甲斐があったわ」
「ええっ?もうっ、信長様ったら…ふふっ」
呆れた顔で微笑む私の頭を、この上なく優しい手つきで撫でながら、優しく包み込むような声で労いの言葉を囁いてくれる。
「少し休むがよい。疲れたであろう?」
「はい…傍に、いて下さいますか? 手、握ってて欲しい…」
「ああ、どこにも行かん。ゆっくり休め」
信長様の大きな手が重なり、指を絡めてしっかりと繋がれる。
疲労の為に重かった目蓋を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
信長様が隣にいてくれる、それだけで安心できた私は、気怠い身体を褥に委ねて深い眠りに落ちていくのだった。