第44章 生命(いのち)
その後も、しばらく褥の中で身体を寄せ合って他愛ない話をしていたけれど、そろそろ秀吉さんが来る刻限が近づいてきた為に、信長様は先に褥を出て身支度を整えられる。
その様子を横になりながら見ていた私は、急に下腹部に締め付けられるような痛みを感じてドキッとした。
(…やっ…いたっ…何これ?)
急な痛みに不安になるも、しばらく我慢していると痛みは引いていった。
が…安心したのも束の間、少しの後、また同じような痛みに襲われる。今度はなんだか腰の辺りも痛い気がする。
信長様は既に身支度を整え、文机の前で書簡を広げておられる。
断続的に襲って来る痛みに顔を顰めながら、ただ事ではない予感がして……
(うぅ…痛い…どんどん酷くなってる気がする…これってもしかして……?)
「っ…信長様…」
褥の中から掠れる声で名を呼ぶと、私の声の異変に気付いた信長様が慌てた様子で傍に来てくれた。
痛みのせいで額に脂汗が浮くほどの私の様子を見て、息を呑むほど驚いている。
「朱里っ、どうしたっ?」
「うっ…産まれそうです…」
「何だと??っ…こんな急にか?」
慌てながらも、流石は信長様、その行動は早かった。
私を抱き上げると、襖を足で乱暴に開けて天主の部屋から出て行く。ドンドンと大きな音を立てながら階段を降りている途中で、下から昇ってきた秀吉さんと鉢合わせする。
「お、御館様??如何なさったのです??」
「秀吉っ!すぐに家康と産婆を呼べ。朱里が産気づいた」
それだけ言い捨てると、信長様は秀吉さんの横をすり抜け、足早に降りていく。
「えっ?…ええええぇ!!」
背後から秀吉さんの絶叫が聞こえたけれど…私はもう話かける余裕もなくて……信長様の首にギュッとしがみついていたのだった。