第44章 生命(いのち)
それから、信長様曰く拷問?のようなひと月を、私は何事もなく過ごして、ようやく産み月である如月の月を迎えたのだった。
朝目覚めると、身が凍りそうな冬の寒さに、布団の中で思わず身を竦めると、隣に眠る信長様の腕がすぐに私を抱き寄せてくれた。
「ん…おはようございます」
「今朝は格別冷えるな。まだ早い、休んでおれ」
「はい…信長様も…もう少し、一緒にいて下さいますか?」
朝が早い信長様は、目覚めるとすぐ、書簡の整理などの政務を天主でなさることが多い。
今日はもう少し褥の中で一緒にいたくなって、胸元に顔を埋めて甘えたように言ってしまう。
「ふっ…愛らしいことを言いおって。貴様に触れられぬのが、至極残念だが…」
チュッと額に一つ口づけを落とすと、抱き締める腕に力を込める。
(信長様の腕の中にすっぽりと包まれていると、すごく安心する)
「……今日は城下へご視察ですか?」
「ああ、午後からな。そうだな…何か土産を買ってきてやろう。何がよい?」
「まぁ、そんな…ご政務で行かれますのに、お土産など…」
「遠慮するな…本当は貴様と一緒に行きたかったが、今は大事な時ゆえ、な…」
「信長様…」
(そういえば、長らく城下にも行けてないな。逢瀬も久しくしてないし…子供が産まれたら、二人だけの時間ってなくなってしまうのかしら……)
無意識に表情が曇ってしまった私の顔を、信長様は心配そうに覗き込みながら、
「如何した?心配事があるなら何でも言え、と言っただろう?俺に隠し事は許さんぞ」
少し拗ねたように言う姿が可愛くて、思わず口元に笑みが浮かんでしまい……それを見咎めた信長様に、頬をムニュッと引っ張られる。
「やっ…ん…痛いです…」
「…お仕置きだ」
あっと思う間もなく唇が重なり、チュウッと甘く吸い上げられる。
それは一瞬のできごとで…信長様の唇はすぐに離れていったけれど、唇に残されたその熱は、いつまでも私を熱くする。