第43章 決戦
繰り出される斬撃を、済んでのところで避けながら、こちらからも斬りかかるが、ことごとく打ち返されて、徐々にはぁはぁと息が上がってきているのを感じる。
それまで固唾を呑んでその場に座り込んでいた朱里が、ふらふらと立ち上がるのが視界に入り、一瞬目を逸らしたその瞬間、信長の鋭い一撃が胴めがけて薙ぎ払われた。
(くっ…しまったっ!)
辛うじて後ろに飛び退って避けようとしたが間に合わず、信長の刃の切っ先が胴を斬りつけていた。
切っ先が触れた箇所に、鋭い痛みと鉄に焼かれたようなひどい熱さが襲う。
「っ…くっ…」
「終わりだ、元就」
跪いた俺に、再び刀を構え直した信長の冷静な声が頭上から降ってくる。
「くくっ…てめぇこそ、忘れてんじゃねぇのか?こっちには大事な人質がいるってことをよ」
目の前の信長から視線を逸らさずに瞬時に移動し、朱里を腕の中に閉じ込めて、その小さな頭に銃口を突き付ける。
「っ…やっ…元就さん…」
「悪いな、お姫さん…暫く付き合ってもらうぜ」
「くっ…元就、貴様…」
腹の傷は深傷ではないが、手負いの状態で信長を討つのは難しいだろう。一旦兵を引くしかないが……朱里をここで手離したくはなかった。
朱里に銃口を突き付けたまま腕の中に閉じ込めて、信長との間合いを取りながら、引き摺るようにしてじりじりと移動し、ガレオン船に横付けしてあった小早船に乗り移った。
その途端、織田の兵が弓や鉄砲を向けてきて緊張が走ったが、信長が一喝する声が聞こえてくる。
「っ…止めよ、朱里に当たるっ」
好いた女を盾にして撤退するなど、みっともないことこの上ないが、そんなこと言ってられる余裕もねえ。
何よりも朱里を信長のもとに返したくなかった。
どんなにみっともなくても、この女を一緒に連れて行きたかった。
だが俺は……朱里という女の本質を分かってなかったのかもしれない。信長が溺れる程に寵愛する、この姫の本当の強さを………