第43章 決戦
「チッ、織田の鉄甲船とやらは鉄の塊かよ。火矢も大砲も効かないとはな」
ガレオン船の甲板で戦況を窺う元就の表情には、焦りが見られた。
次々と破壊される味方の船。残る船では既に白兵戦が始まっており、船の乗っ取りが行われている。
信長が乗っているであろう船は、鉄甲船の後方に控えており、鉄甲船の防御に阻まれて容易に接近できないでいた。
(信長を討ち取れば形勢は逆転する…奴は必ずこちらへ来るはずだ)
元就は、傍らで呆然と前方で行われている激しい戦闘を見つめている朱里を見遣る。
次々と沈んでいく船を見て悲しげに顔を曇らせているその姿に、胸がチクリと痛む。
信長が寵愛する美姫…一体どんな女なのかと最初は単純に興味を持った。信長の首を取る為に攫い、戯れにその身体に触れている内に、いつしか引き返せない程に惹かれていた。
くるくると表情を変え、敵陣にあっても気丈に振る舞う姿を見ていて、心底欲しいと思った。
信長のことを信じ切っているその姿には、激しい嫉妬を覚える。
この女を信長に渡したくない……いつしかそんな風に思うようになっていた。
その時、突然ドーンっという激しい衝撃とともに船が大きく揺れた。隣で朱里が体勢を崩して倒れかけるのを、慌てて抱き留めて支えてやる。
「っ…なんだ?まさか…」
視界の端に一艘のガレオン船が入り、自らの船に横付けされたことを悟る。
(……いつの間に来やがった…)
「………元就、今すぐ俺の妻から離れろ」
地獄から響いてくるような威圧感のある低く氷のように冷たい声が、頭上から投げかけられて、ハッとする。
「っ…信長…てめぇ…」
「信長様っ!」
腕の中にいた朱里が、信長の声に反応して瞬時に顔を上げ、腕の中から逃れようと身動ぎするのを、片腕で抑えながら、ゆっくりと間合いを取って抜刀する。
刃が陽光を受けてぎらぎらと反射している。
「はっ、自ら乗り込んでくるとは手間が省けたな」
「ふっ…この戦、貴様の負けだ。天下人の女を攫ったこと、後悔させてやろう」
言うや否や、刀を抜き放ち、一気に距離を詰めて切りかかってくる。
キンッという鋭い金属音とともに斬撃を刀で受けると、ビリビリと腕に響くほどの衝撃が走った。そのまま刀を弾き返すが、間髪入れずに二撃目が頭上から打ち下ろされる。
(…っ…早い…なかなかやるじゃねぇか)