第43章 決戦
吉田郡山城に入った元就の下へは、先の戦の敗戦後、散り散りになっていた旧臣達が集まってきており、城の中は俄かに騒々しくなっていた。
私は、連れてこられた日から城の一室に軟禁状態で、見張りをつけられて外の様子も窺い知れないでいた。
(元就さんは私のことを信長様との戦の『切り札』だと言っていた。
だとしたら、信長様との決戦の場に私を連れて行くはず。
信長様の負担になるのはいや…何とかして逃げる隙を見つけないと…)
迫る開戦の時をひしひしと感じながらも、何もできない無力な自分が歯痒い。
もやもやとした気持ちを抱えながら、考え事をしていると、
「お姫さん、入るぞ」
襖を開けて元就さんが入ってきたので、思わず身体を固くして身構える。
「……そんなに警戒しなくても、何もしやしねぇよ…今はまだ、な」
ニヤリと不敵な笑みを口元に浮かべて、紅い瞳が見つめてくる。
「織田軍が安土を出たそうだ。いよいよ祭りの始まりだ。信長は今回、水軍と共に出陣してる。俺も水軍の指揮を執る。お姫さんも俺と一緒に船に乗ってもらうぜ」
「っ…戦は避けられないのですか?信長様は天下布武のため、誰もが平等に生きられる世の中を造るため、そのために戦をなさいます。私利私欲のための戦はなさらない方です。
元就さんは、何のために信長様と戦うんですか?
毛利家を滅ぼした信長様が憎いから?信長様を倒して、毛利家を再興するためですか?」
「ふん、毛利家の再興だって?そんなもんは知ったこっちゃねぇ。信長のことも憎くはない。だが、奴が天下を治めるのは認められねえし、お前を奴に返してやる気もない」
「…そんな…」
(元就さんは信長様に支配されるのが嫌だって言う。信長様は力づくで人を支配するような人じゃないのに、何で分かってもらえないんだろう……)
「……お姫さん」
考え込んでいた私の背後に、いつの間にか元就さんが立っていて、後ろからぎゅっと抱き締められていた。首筋に唇を押しつけられ、熱い吐息がかかって、焦る。
「……ちょっ、何するんですか?いやっ、離してっ!」
「くっ…その反応、堪んねぇ。魔王の嫁なんか辞めて、俺に乗り換えねぇか?身体中、悦ばしてやるぜ」
(っ…うそ…本気なの?)
「いやっ、貴方の思い通りになんてならないっ!」
力一杯腕を押して、何とか元就さんの腕から逃れる。
(信長様……)