第42章 甘い誘惑
ギギィ ギギィという何かが軋む音が聞こえたかと思うと、部屋の中がぐらりと揺れる。
「っ…きゃあ!」
(な、なに??足元が揺れてる…船が、動いてる??)
慌てて座っていた寝台を降りて、床にしゃがみ込んでいると、ドアが開いて元就が大股で歩きながら部屋の中へと入ってきた。
「……何してんだ?お姫さん」
呆れたような顔で上から見下ろされて、慌てて立ち上がる。と、その拍子に再び床が揺れて……身体を支えきれずに、元就の胸に飛び込んでしまうような形になってしまった。
日に焼けた逞しい腕が私の身体を抱き竦める。
「くくっ…何だよ?大胆だな。誘ってんのか?」
「ちっ、違います!離してっ!」
「………………」
元就は私を抱き締めたまま無言になる。
「……何ですか?」
「…いや、お姫さん、華奢な身体のくせに結構、胸デカイな」
「…っ!いやっ、早く離れてっ!」
腕に力を込めて元就の身体を押し返そうとするけれど、びくともしない。それどころか、更に強く抱き締められて、元就の厚い胸板に着物の下の胸の膨らみが押し潰される。
「いやっ…やだ…離して…」
「くくっ…お姫さん、それは逆効果だぜ。そんな声で啼かれたら、男は誰でもその気になっちまうだろ?」
ニヤニヤといやらしく笑いながら、いきなり耳たぶにカプッと噛みついてくる。耳飾りを奪われた方の耳に……
「っ…あ…いやぁ…」
歯の感触の気持ち悪さと、がっちり押さえられて抵抗できない悔しさから、目に涙が滲んでくる。
「そんな物欲しそうな顔すんなよ。残念だが、今はお前と遊んでる暇はねえ。さっきの揺れで分かったと思うが……この船はたった今、港を出た。これからしばらくは海の上だ」
(海の上…?そんな……安土から、信長様から、どんどん離れてしまう…)
「…港を出て、どこへ? 何処へ向かっているんですか?」
少しでも情報を得ようと抵抗する力を緩めて問いかけるが、元就は私の思惑を読んでいるかのように、唐突に私の身体を離してくる。
「…どこに行くかは、着いてのお楽しみだ。時間はたっぷりあるからな……俺を楽しませてくれよ、お姫さん」