第41章 幸せな時間
「……眠ったか…」
ふぅーっと一つ息を吐いて全身の力を抜き、信長はゆったりと褥に身体を預ける。
情事の後の身体の気怠さがむしろ心地好く、久しぶりに精を出し切って頭の中もすっきりとしていた。
隣ですうすうと気持ち良さそうに寝息を立てる朱里
その顔に、先程までの妖艶な大人の女の面影はなく、無邪気なまでに穏やかな顔で眠っている。
その、少し目立ち始めた腹の膨らみに、そっと手を乗せてみる。
やわやわと撫でてみるが、まだ何も感じない。
家康の話では、もうじき腹の中の子が動き始めるというが…まだ早いのか…?初めてのことゆえ、分からぬことが多いな。
(この俺が子を持つことになるとはな…)
妻も子も持つつもりはなかった……朱里に出会うまでは。
天下布武を掲げる俺には敵が多い。戦場では死ぬ気はしないが、平常時でも毒やら鉄砲やら、命の危険に晒される。
妻子を持てば、その者達も俺と同じ危険に晒されるということだ。
守るべき者が増えれば、その分、隙ができる、と思っていたから、妻子も持たず、一族の者とも距離を置いてきた。
だが……朱里だけは…どのような犠牲を払ってでも、欲しいと思った。どのような危険からでも、俺が守ってやる、と。
朱里とは初めての閨から当たり前のようにナカに出していたから、遅かれ早かれ、子ができるものとは思っていた。
最初から、朱里が相手ならば子を孕ませてもよいと思っていた。
そんな風に思えたのは朱里だけで…朱里に出会うまでに関係を持った女たちとの情事では決してナカで果てることはしなかった。
立場的にも、重臣の間からは『早く世継ぎを』という声が上がっていることも知っていたが、それでも自分の子が欲しいとは思えなかった。
自分の跡目などは、然るべき能力のある者へ託せばよい、と本気で思っている。
朱里の産む子がもし男子であったとしても、世継ぎとしての器量がなければ無理に俺の跡を継がせる必要はないし、本人が自由に生き方を決めればいいと思う。
子が大きくなる頃には、家柄や身分で生き方が決まるような世の中は俺が壊しておいてやる。
誰もが自由に己の生き方を決められる世の中に……俺が必ず成し遂げる。