第40章 萌芽〜めばえ
程なくして、政宗に呼ばれた家康が、自身の御殿から全速力で走ってきて朱里の部屋へと飛び込んできた。
「はぁはぁ…朱里、大丈夫っ?」
「……家康?」
「アンタ、吐いたって…?すぐ診察するから…千代、アンタは一緒にいて。政宗さんは外に出てて下さい」
「…分かった。信長様には知らせるか?」
「っ…やだ、政宗。信長様には言わないで!吐き気だけで、大したことないし…心配かけたくないから…」
「………………」
「知らせるのは診察してからでもいいですよ。詳細が分からないと何とも言えないし…」
「分かった…頼むぞ、家康」
政宗が部屋を出て行くと、家康は脈を取ったり、胸の音を聞いたりした後、最近の私の様子を千代にあれこれと尋ねていく。
「脈が少し早くなってるね…あとは、吐き気と息切れ、怠さ、眠気、食欲不振か…」
小声で独りごちながら、何事か思案するように難しい顔をしている家康を見て、益々不安が広がっていく。
「……あのっ、家康? 私、何か重い病気なのかな?」
「ん…ああ…いや…」
(家康のこの煮え切らない態度…やっぱり何かあるの??)
「………ねぇ、朱里?…アンタ、月のもの、ちゃんと来てるの?」
「………え? ええっ? 月のもの、って…今月はまだ…来てない。先月は…あれ?…来てない?」
「はぁ…千代、どうなの?」
急に話を振られて、千代はあたふたと慌てながらも記憶を辿る。
「は、はいっ…確かに先月はなく、今月も予定より遅れておられます。ですが姫様は、夏場は毎年ご体調を崩されて、月のものがないこともしばしばございましたので…特に心配はしてなかったのですけれど…。
あのっ家康様、もしや姫様は……?」
「うん、多分だけど…懐妊してると思う」
「はぁ…懐妊…っえええっ、懐妊??ほんとに?」
「千代の話だと、この時期は毎年不順だって言うから…まだはっきりとは言い切れないけど、俺が様子を見た限りでは、懐妊の可能性が高いと思う。もう少し様子見てから、産婆にも見てもらえばはっきりすると思うけど」
「姫様っ、良うございましたねっ」
千代の喜ぶ声を聞きながら、思わずお腹を押さえてみるけれど…そこは当然のようにまだ何の変化もなくて、昨日までと変わった事は何も感じられなくて……
(懐妊…信長様の御子がここにいるの?信長様に愛された証がここに……?)