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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第39章 紫陽花の寺


「七徳とは、暴力を禁じ、兵を遠ざけ、大いなることを保ち、功を定め、民を安心させ、民を和(なごま)せ、経済的に豊かであること、この七つでござる。
信長様が戦をなさるのは、武力で他を圧する為ではなく、天下を平和に治める為の手段に過ぎぬのです。あのお方は徹底的な合理主義ゆえ、その行動が人から誤解されやすいのですがな…」

慈愛に満ちた表情で話される和尚様は、真に信長様を案じておられるようだった。

「長い年月を費やしてようやく美濃国をお取りになったあの日、岐阜城の天主で、拙僧は信長様に申し上げました。『天下布武』を成し、『麒麟』が降り立つ世をお造りなされ、と」

「『麒麟』……ですか?」

「左様、『麒麟』は仁徳のある正しい政を行う為政者が現れた時にのみ、この世に降り立つと言われている聖獣でござる。
朱里様は、信長様の花押をご覧になられた事がおありか?
信長様の花押はこの麒麟の『麟』の字なのですよ。
あの花押には、日ノ本を正しい政で導いていこう、という信長様の強い決意が込められておるのです」

そこまで言うと、和尚様はふーっと息を吐いて、すっかり冷めてしまったであろう茶を一息に飲み干された。

「信長様が岐阜から安土に移られて、拙僧もこの寺に移りました。今ではもう、あの方が私の進言を必要とされることはございませんが、時折こうしてふらりと顔を見せに来て下さるのですよ」

「……和尚様は、何故、今日会ったばかりの私に、このような話をして下さるのですか?」

「信長様はこれまで、頑なに妻を迎えようとはなさらなかった。恋仲の女子すらおられず、家族とは距離を置いてこられた。
愛する者を持つことは、大望の妨げになるとお思いだったのでしょう。……だが、自ら望んで貴女を妻に迎えられた。
信長様が共に歩むことを望まれた朱里様には、信長様の目指しておられる世について、知っていて欲しい。その上で、あの方をお支え頂きたいのです」

「和尚様……」

お二人の深い絆と信長様の崇高な志に触れて、信長様の目指しておられるものの大きさを改めて感じる。

(私も信長様の大望のお役に立ちたい…私の存在が信長様の安らぎになっていればいいのだけれど…)


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