第38章 愛しき日々
広間の入り口まで来ると、既に武将や家臣達は集まっていて、信長様が入られるのを待っている様子だった。
二人して広間へ入り、上座の席に着くと皆が一斉に頭を下げて……
『御館様、奥方様、お誕生日おめでとうございます!』
(え?……今、何て言った??)
「朱里、遅くなったが…誕生日おめでとうな!」
「一応、おめでとうと言っておこうか…小娘は一つ歳を取っても変わらぬな…おっと、これは良い意味で、だぞ」
「朱里、おめでとう!今日はお前の好きなもん、いっぱい作ったからな〜遠慮せず、どんどん食えよ〜」
「朱里、おめでとう。アンタは一応、俺の初めての弟子だから、ね。これからもビシビシ鍛えてあげるから……覚悟して」
「朱里様、お誕生日おめでとうございます!お祝いが遅くなってしまい、申し訳ございませんっ」
(どういうこと??なんで皆、私にお祝いを?)
「あっ、あの…これ、どういうことですか?」
隣に立つ信長様は口許に微笑を浮かべ、慈愛に満ちた目で私を見つめている。
「ふっ…今宵の宴は俺と貴様の誕生祝いの宴だ。朱里、遅くなって悪かったが…誕生日おめでとう」
「信長様………」
今日は本当になんて日だろう…
こんな風に誕生日を祝ってもらえるなんて…想像すらしていなかった。こんなに皆に大事に思ってもらえるなんて、私はなんて幸せなんだろう…
気がつけば涙が一筋、頬を伝って零れ落ちていた。
「…泣くでない。俺は貴様の笑顔が見たいのだ」
私の涙を指先で拭いながら、少し困ったように私の顔を覗き込む。
「ふふ…これは嬉し涙ですから…今だけは許して下さい」
涙の滲む目元を緩め、愛しい人に微笑みを返す。
信長様の手が私の頬を優しく包み込み、その端正な顔が近づいてきて…耳元でそっと囁く。
「…朱里、目を閉じよ」
「…え?」
(目を閉じろ、って?口づけするの?…や、でも、こんな人前で?…嬉しいけど…恥ずかしいし…家臣の方がいる前でなんて…秀吉さんに叱られるよね??)
揺れ動く気持ちに整理がつかないまま、無意識に言われたとおりに目を閉じてしまった、その時………
シャランッ
信長様の長い指が、そっと私の耳朶に触れたかと思うと…キラキラと輝く紫色の石が揺れる美しい耳飾りがつけられていた。
「………信長様、これ…?」