第38章 愛しき日々
「俺からの祝いの品だ。その石は『紫水晶』だ。紫は貴人が身に纏う高貴な色だ。紫水晶には『真実の愛』という意味があるらしい。
俺から貴様への愛の証しとして、これを贈ろう」
しずく型をした紫水晶が耳元で揺れる。深く濃い紫色をしたその石は、光を受けてキラキラと輝いており、石の周りにも金銀の装飾が繊細に施された、見るからに高価そうな耳飾りだった。
「っ…このような高価なものを頂いては…」
「貴様は天下人の正室だ。その耳飾りは、貴様が俺のものだ、という証だ」
独占欲を滲ませる熱っぽい深紅の瞳に絡めとられて、ドキドキと胸がうるさく騒ぐ。
美しい耳飾りはそれだけでも心がときめくけれど、それに込められた信長様の想いに触れて、ますます心が満たされていく気がした。
「ありがとうございます。大事にします」
微笑んだ私の頬を手の甲でそっと撫でながら信長様の顔がゆっくりと近づいてきて……その整った唇が私の唇に重なりかけて………
「っ、あー、こほんっ!御館様っ!
そろそろ宴を始めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
突然、秀吉さんの大きな咳払いが聞こえてきて、ハッと我にかえる。
口づけを止められた信長様は、わざと聞こえるようにチッと舌打ちしてから、私の耳元に甘く囁く。
『…続きは宴の後だ。今宵は朝まで寝かせてやらぬから、覚悟しておけ』
耳元に注がれた甘い囁きに、紫水晶の耳飾りがシャラリと澄んだ音を響かせて揺れた。