第38章 愛しき日々
信長は、自室に戻るという朱里と別れた後、広間に武将達を集める。『緊急の軍議だ』だと伝えさせて。
「御館様っ、緊急のお呼出しとは…もしや毛利に何か動きがあったのですか??」
秀吉が、自席から身を乗り出さんばかりの勢いで問うてくる。
「いや、元就の所在は未だ不明だ。そうだったな、光秀?」
「はっ、間諜に探らせておりますが…未だ掴めず。申し訳ございません」
深々と首を垂れる光秀。
「よい、これは想定の範囲内だ。謀神と呼ばれる男だ。そう易々と尻尾を掴ませる筈がないだろう。引き続き、探らせよ…地上だけでなく海上も、な。
さて……今日集まってもらったのは、元就の件ではない………誕生日のことだ」
「………………は?」
予想外の話の展開だったのだろう…皆、一瞬静まりかえり、困惑の表情を浮かべている。
「…あ、えー、御館様?今年も御館様の誕生日の祝いについては、順調に準備が進んでおります。このような不穏な時期ではありますが、民たちも楽しみにしておりますし、例年同様、盛大にお祝いさせて頂く予定です!」
秀吉が胸を張って誇らしげに言う。
「……いや、そうではない。朱里のことだ。朱里の誕生日の話だ」
「はぁ???」
(皆、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしおって……)
「あの…御館様?朱里様のお誕生日とは…いつでございましたか?
申し訳ございませんが、思い出せなくて…」
神妙な面持ちで必死に記憶の糸を手繰り寄せているのは、三成だ。
(朱里のことだ、俺だけでなく誰にも言ってなかったのだろうな)
「いや、三成、朱里は自らの誕生日のことは、誰にも知らせておらん筈だ。俺もたまたま今日、聞いた。
朱里の誕生日は………睦月の12日、だそうだ………」
「睦月っ??とっくに過ぎてるじゃないですか??」
皆が一斉に驚いて声をあげる。それが、自分が責められているように聞こえてしまい、耳が痛い。
「今日聞いたのだから仕方がなかろう。
だが、今からでも遅いということはない。
そこでだが、俺の誕生日の祝いと朱里の誕生日の祝いを一緒にしてはどうか、と思うのだが…どうだ?秀吉」
「それは、良きお考えかと存じます。早速準備に取り掛かります!」
「あいつの好きな物、いっぱい作ってやらないとな!」
「贈り物もご用意しないといけませんね。朱里様はどの様なものをお好みでしょうか……」