第35章 伊勢へ
翌朝
早い時間に宿を出た私達は、安濃津城を目指して馬を歩ませる。
揺れる馬上で、信長様の胸に凭れていると、温かな体温を身近に感じて、心地良い揺れに眠気を誘われる。
昨夜の信長様は………すごかった。
何度果ててもすぐに求められて、結局朝まで寝かせてもらえず、何度抱かれたのかすら、分からなかった。
(最後の方はよく覚えてない…朝、気が付いたら、もう、いろんなものがぐちゃぐちゃだった………)
思い出しただけで恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
朝起きたら身体中に口づけの痕が残っていて、もう伊勢に着くまでには絶対消えない……。
(だめって言ったのに、首筋にも痕が……御母上様たちに気付かれないようにしないと……)
おまけに、足を開いて馬に跨るこの格好は本当に…痛い…信長様には絶対に言えないけど。
考えごとをしながら馬に揺られていると、無意識にウトウトと眠ってしまっていたようで、馬がぶるぶると鼻を鳴らす音にハッとなって目が覚める。
「んっ、あ……」
「眠っていてよいぞ。支えておいてやる。
………昨夜はまた無理をさせたしな」
馬の首筋をトントンと優しく叩いてやりながら、私の身体を抱き締める腕に力をこめる。
「あっ、いえ…大丈夫です…」
(眠った人間を支えて馬を歩ませるのは、信長様でもお疲れになるはず。信長様だって、ほとんど眠っておられないんだし、ご負担をおかけする訳には…)
「……俺なら大丈夫だぞ。貴様が思うほど疲れてはおらん。眠気も感じぬし、このぐらいの疲れが、むしろ心地良いぐらいだ」
(………確かに、清々しい笑顔。なんかスッキリ出し切った、って感じ?)
「安土に戻ったら私、武術の鍛錬、もっと頑張りますね…体力なさ過ぎて…呆れてますよね?」
「くくくっ……何を言い出すかと思えば…
貴様はそれぐらいでちょうど良い。
それに、それ以上、武術を磨いてどうするつもりだ?
戦場にもついて来るつもりではないだろうな?」
「もうっ!意地悪ばっかり仰るんだから…」
頬を膨らませて怒ったように見せながら、こんな風な他愛ない遣り取りをいつまでも続けていけたらいいな、と強く願いながら馬を歩ませて行った。