第35章 伊勢へ
「………………」
無言で黙り込む信長様。
(諦めて下さったかな…私だって信長様と何度も愛し合いたいけど、信長様にはゆっくりお疲れを取って頂きたい。
しかも護衛とはいえ、他人に見られてるかもしれないと思うと…そんなの堪えられない。
正直言って、今宵は私も体力的にちょっともう…ほんとに無理だし)
安心しかけたその時、いきなり信長様が天井に向かって声を張り上げた。
「……伊助、そこにおるのであろう?」
「………はっ、御館様、お傍に…」
天井裏から低く小さな声が聞こえてきて、ぎょっとなる。
(わっ、ほんとに居た!適当に言っただけだったのに)
「……今宵はもう下がってよい。朝までこの部屋から離れておれ」
(わわっ、なんてこと言うの?)
「……っ、しかし…秀吉様からは片時も離れず、お守りせよ、と…」
「他の者と同様、宿の外で見張っておれ」
「っ……しかし…」
「………俺の命令が聞けぬのか?
貴様の主は、誰だ?」
信長様は威圧感溢れる恐ろしい声で言いながら、天井を睨みつける。
「っ…御意」
そう聞こえた瞬間、天井裏にあった微かな人の気配が完全に消えて、部屋の中に気まずい沈黙が訪れる。
「あっ…あの…信長様?」
「さあ、これで文句はあるまい。
朱里、寝所へ行くぞ」
信長様は、勝ち誇ったように宣言すると、私を抱き上げて大股で歩き出した。
「きゃあ! や、やだ…待って、信長様…」
「待たん。貴様は今宵は何も考えずともよい。
黙って俺に愛し尽くされておればよい」
抱き上げられたまま、耳の奥に甘く低い声を熱っぽく注ぎ込まれて、身体の奥が敏感に反応する。
褥の上に優しく下ろされて、信長様の熱っぽい身体が重なるとすぐに、乱れた声を抑えられなくなった。