第35章 伊勢へ
湯殿での情事のあと、しばらく立ち上がれなかった私を、信長様は優しく介抱してくれ、身体を拭いて着替えまでさせてくれた。
「ううっ、信長様、ごめんなさい…」
信長様の腕に抱かれて、湯殿から部屋へ戻りながら、申し訳なくて顔を伏せる。
「ふっ、気にするな。貴様は軽すぎるぐらいだ。
今宵の夕餉はしっかり食って体力をつけよ」
何だかすっきりとした表情の信長様とは対照的に、私はもう既にお腹いっぱいな感じで、信長様の厚い胸板に頭を預けていた。
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部屋に戻ってから暫くすると、宿のご主人が夕餉を運んできてくれて二人でいただく。
信長様がやたらと私に「もっと食べろ」と薦めてくるのが気になったけど、どの料理も美味しくて、自然と箸が進んだ。
「はぁ〜、お料理、とっても美味しかったですね!」
「あぁ、なかなか手の込んだものだったな」
信長様はお酒を飲みながら、私を見て満足そうに微笑む。
「御酒は控えめになさって下さいね。明日に差し支えますから」
信長様の身体が心配で声をかける私に、
「…そうだな、そろそろ寝所へ行くか」
そう言いながらお盆の上に盃を置いて、立ち上がる。
「はい。では、おやすみなさいませ」
就寝の挨拶を、と手をついて頭を下げた私の頭の上から予想外の言葉が降ってきた。
「貴様……誰が寝ると言った?」
「…………は?」
驚いて頭を上げた私の顎をクイッと持ち上げて、噛み付くように口づける。
口内を舌が這い回り、絡めとられるように何度も唇が重ねられる。
「んんんっ、やっ…あ…ふぅ…」
散々口内を舐め回して、ようやく唇を離した信長様は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、夜はこれからだぞ」
「えええぇっ! や、だって…さっき、あんなに…」
「だから、沢山食って体力を回復しただろう?
まだ大丈夫だ。…まぁ、今宵は朝までとは言わんから安心しろ」
「…………」
(いやいや…無理です。さっき立ち上がれなかったのを、もうお忘れですか……。夕餉をあんなに熱心に薦めてくださったのは、そういう意味だったとは…それに、そうだ!すっかり忘れてたけど…)
「あっ、あの、お部屋には近くに護衛の方がいらっしゃいますよね?
確かこういう時は、忍びの方は天井裏とかに潜んでて…
っ、そんな見られてる中でするのは絶対にいやですっ!」