第35章 伊勢へ
これまでにも何度となく重ね合わされた、口づけ。
何度重ねても、足りない、もっと欲しい、と思ってしまうのは、私の欲深さゆえなのだろうか…
貴方を欲する、この渇望は、永遠に満たされることはないのかもしれない。
「っ、はぁ…はぁ…」
荒く息を吐き、乱れた呼吸を整える。
そんな私を見て満足げに微笑みながら、信長様はその腕の中に私を閉じ込める。
「ふっ、愛らしいな、貴様は。
今はこのぐらいで我慢しておいてやる。
続きは今宵、宿でな……覚悟しておくがいい」
意地悪な笑顔をみせる信長様。
散々弄られて翻弄された身体は、火照ったように熱くなり、更なる刺激を欲して中心が疼いて仕方がなかった。
そんな淫らな姿を知られたくなくて、熱くなった身体に気付かれないようにと、密着していた身体を少しだけ離す。
甘く乱れた空気を変えるように、前方の道が険しさを増してくるけれど、信長様は私を抱いたまま、片手で器用に手綱を捌いて山道を登って行く。
二人とも急に黙ってしまって、何だか気まずい空気が流れる。
(何か話題はないかな…あっ、そうだ!)
「あのっ、信長様は子供の頃はどんな風だったんですか?」
「……何だ、急に。何故そんなことを聞く?」
訝しそうに見られて、一瞬怯んでしまったけど、以前から聞いてみたかったことなのだ。
「信長様の昔のことも知りたいです。
大好きだから……昔の貴方のことも今の貴方のことも…全部知りたい、です」
「っ…」
「私のことも全部知って欲しいから…私の子供の頃のお話も聞いて下さいね」
「っ、貴様は今と同様、愛らしい子供だったのだろうな」
「う〜ん、愛らしいかは分からないですけど…
馬が好きで馬小屋でずっと馬を見ていたり、男の子相手に竹刀で打ち合ったりするようなお転婆でしたよ。
侍女の千代は子供の頃から一緒にいるんですけど、私が振り回すからいっつも困ってました」
遠い昔の懐かしい記憶が頭の中に蘇ってきて、郷愁の念に駆られる。
「くくっ、貴様らしいな。
天真爛漫というか何というか……やはり面白い女だ」