第34章 すれ違い
「っ、はい!どんな信長様も…好きです。
自信たっぷりで俺様な信長様も、少し意地悪な信長様も、優しい言葉を紡いでくれる信長様も、私をいっぱい甘やかしてくれる信長様も……全部全部大好きです」
「っ…」
「……信長様と一緒にいると、私はどんどん欲張りになってしまうのです。
貴方の心も身体も独り占めしたい。
…貴方が他の女子と閨を共にされたと思うだけで、胸が張り裂けそうに辛いんですっ」
「……は? 待て貴様、何の話をしている?
俺がいつ、他の女と寝たというのだ?」
「っ、だって……あの日、朝帰りなさったじゃないですか!
……お身体から女子の甘い香の香りがしました…
一体、どちらでお休みでしたのっ?」
恨めしそうな目で見つめてくる姿に、男の情慾が掻き立てられる。
朱里が俺に嫉妬するなど……初めてではないか。
女に嫉妬されることがこれほど心地良いとは思ってもみなかった。
自然と口角が上がって頬が緩みそうになるのを、何とか耐える。
「………仏間だ」
「……えっ?仏間??」
「あの夜は…本丸御殿の奥の仏間で休んだのだ。
織田家の代々の位牌が祀ってある。そこに親父の位牌もある。
衝動的に天主を出たものの、一人で居れる場所がなくてな」
「……城下に行かれたのかと…」
「行くわけなかろう。
俺が貴様以外の女を抱く訳がない」
「っ、でも……あの香の香りは?甘い香りでした」
「ふっ、仏間で親父の好きだった香を焚いたのだ。
親父が好きだった……昔、母上がその身に焚き染めておられた香を……久しぶりにな。その香りが残っていたのだろう」
「……信長様、ごめんなさいっ。
私、勘違いして…恥ずかしいです……」
嫉妬した自分を恥じるかのように、朱里の頬が赤くなっていく。
その可愛らしい姿に、今すぐ押し倒して口付けたい衝動がむくむくと湧き上がってきて、自分の欲深さに呆れる。