第33章 母と子
有無を言わせぬ剣幕で私を制すると、身体を起こした信長様は、乱暴に私を押し倒した。
勢いよく床に押し付けられて、背中に衝撃が走る。
「っ、痛っ」
初めて乱暴に扱われたことに戸惑いを隠せずに、信長様を仰ぎ見ると、今までに見たことないぐらい冷たく凍った感情のない紅い瞳が私を見下ろしていた。
(っ、怖い…こんな信長様、初めてだ…)
冷たい手が荒々しく着物の裾を割って、まだ濡れてもいない秘所へと侵入する。
「ゃ、いや…信長様、痛いっ…やめて…ください」
信長様の身体を押し返そうと必死で抵抗するが、鍛えられた逞しい身体は女の力ではビクとも動かない。
「……朱里、俺を拒むな…」
腹の底から搾り出すような、掠れた苦しげな声に、ハッとして信長様の顔を見上げる。
迷子の子供のような頼りなげな顔
乱れた感情を映し出すかのように不安定に彷徨う紅い瞳
(信長様は……自分が拒絶されるのを怖れておられるの?)
余裕のない信長様の姿に戸惑いを隠せずに、視線を逸らさず真っ直ぐに見つめた。
「っ、そのような目で俺を見るな。
………興が冷めた」
吐き捨てるように言うと、身体を離して立ち上がり、無言のまま大股に歩いて天主の入り口へと向かう。
「……信長様っ、どちらへ?」
「先に休め」
振り返ることなく出て行ってしまう。
夜闇の静けさの中に、遠ざかる足音だけがやけに大きく響いて、部屋に一人取り残された私の心に、重くのし掛かった。