第33章 母と子
天主で信長様と二人で朝餉を頂いた後、家康のところへ向かう。
「家康、おはよう! 入ってもいいかな?」
「…いいよ、どうぞ」
襖を開けて中を覗くと、家康は机の上に様々な医療用の道具を並べて、私を待っていてくれたようだった。
「今日は、刀傷の手当ての仕方、をやるよ」
「はいっ!よろしくお願いします」
家康は、口調は冷たいけど、教え方は無駄がなくて的確で、すごく分かりやすい。
難しくて最初は全然出来なかった私も、何度か教わるうちに簡単な治療ならできるようになっていた。
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「………はい、じゃあ今日はここまでね」
「はい!ありがとうございました!」
道具の片付けを手伝いながら、今日教えてもらったことを反芻する。
「……家康は凄いね。医術のことも何でも知ってるし」
「……別に。今川の人質だった時に、時間だけはあったからね、独学で覚えた」
家康は幼い頃から他国の人質として転々とし、故郷を離れざるをえなかったと聞いている。
今川家の前には、織田家の人質だった時期もあって、信長様とは幼い頃からの知り合いらしい。
(家康は信長様の昔のことも知ってるのかな)
ふと思い立って尋ねてみる。
「……家康は信長様のこと、昔から知ってるんだよね。
伊勢にいらっしゃる報春院様って………家康は知ってる?」
「アンタ………何でそんなこと聞くわけ?」
不審そうに眉を顰める家康に、今朝の秀吉さんと信長様とのやり取りを話す。
聞き終えた家康は、はぁーっと一つ深い溜め息を吐く。
(っ、そんなに深刻な話だったの?
聞いちゃいけなかったのかな…でも信長様のあの様子…気になるし)