第5章 湯治
宿を飛び出し、夢中で駆け出す。
背後から信長様の制止の声が聞こえたけれど、今にも泣き出しそうな顔を見られたくなくて振り向かずに駆ける。
(信長様…)
息が上がって足がもつれてしまい、転びかけたところで漸く我にかえる。辺りを見廻すとだいぶ宿から離れた所まで来てしまったようだった。
辺りは暗くて、どこをどう走ってきたのか自分でも記憶になかった。宿の明かりはここからでは見えなかった。
(どうしよう…随分遠くまで来てしまったみたい)
真っ暗な中、自分が1人きりなのだということに気づき、恐くなって足が竦んでしまう。
(いつもなら私のそばには信長様がいて下さった。『案ずるな』と言っていつも私を守って下さった…)
(信長様…)
きゅっと唇を噛んで、溢れそうな涙を堪えようとしたその時、背後の暗闇から乱暴な足音が聞こえ、突如屈強な男達が姿を現した。
「くくくっ、こんなとこでこんな上等な女が見つかるとはな」
「どっかの姫か?こいつは高く売れそうだぜ」
(っ、この人達、もしかして宿のご主人が言ってた盗賊??)
「見ろよ、綺麗な肌してやがる。いい匂いがして、堪らねぇな」
男の1人が私を羽交い締めにして、首筋に顔を近づけてくる。そのまま乱暴に首に口づけられ、強く吸われる。
「っ、いやっ。やめてっ!触らないでっ!」
あまりの嫌悪感に涙目になり、身を捩って逃れようとするが、男の力に敵うはずもなく、弱々しい抵抗がかえって男達を煽ってしまう。
(恐い…信長様、助けて!)
着物の袷を開こうと胸元に伸びてきた手に、恐怖で目を瞑ったその時、