第30章 南蛮の風
翌日の午後、私は信長様と一緒に南蛮寺の視察に行くことになった。
一応視察ということなので、秀吉さんに反対されることはなかったけれど、護衛を付けることを条件にされてしまった。
「朱里は御館様の許嫁なんだから、もっと自覚を持ってだな…
御館様も勝手な行動は慎んで頂いて…」
(秀吉さんの過保護っぷりが増してる………)
「…分かった、分かった……。
秀吉、貴様、口煩い姑のようだぞ」
「っな、御館様っ、何ということをっ!」
ブツブツと小言を言っている秀吉さんを置いて、私達は手を繋いで城下へと向かった。
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南蛮寺に着くと、門の前で、黒い異国の服を着た背の高い南蛮人の男性が私達を出迎えてくれた。
「ノブナガサマ、ヨウコソオコシクダサイマシタ。」
「オルガンティノか、息災であったか?」
「ハイ、ノブナガサマノオカゲデ、デウスサマノオシエ、タクサンノヒトニキイテモラエマス。
アリガトウゴザイマス」
(日ノ本の言葉を話されるんだ…しかも上手だし)
感心して見ていた私に気づいたオルガンティノ神父は、小首を傾げてニッコリ微笑みながら問いかける。
「ノブナガサマ、コチラノカタハ?
オクガタサマデスカ?」
「ん、祝言はまだ挙げておらんが、俺の妻になる女だ」
「オオッ、ソレハオメデトウゴザイマス」
「あのっ、初めまして、朱里と申します。
今日はお会いできて、嬉しいですっ!」
「オオッ、シュリサマ。ハジメマシテ。
サア、ナカへドウゾ。イマカラ、オイノリガハジマリマス」