第5章 湯治
まだ日が高いうちに今夜の宿に着く。
綺麗な造りのお宿で、出迎えてくれたご主人も優しそうな方だった。
「信長様、姫様、ようこそおいで下さいました。温泉はここから少し歩いた先にございます。貸切になっておりますので、ごゆっくりなさって下さい」
「お世話になります!」
「今はまだ日が高うございますが、夜遅い時分には温泉の方には行かれませんようにお願いします……最近、盗賊が出るという噂が里の者の間で広まっておりますので」
(と、盗賊??)
「ほぉ、盗賊とは穏やかではないな」
「噂ですので真偽のほどは分かりませんが、念の為です。信長様と姫様に何かあっては一大事ですから」
少し怖くなって無意識に信長様の着物の袖をキュッと握ってしまっていた。
私の様子に気が付いた信長様が振り向いて、安心させるように笑みを見せてくれる。
「案ずるな、朱里。貴様は俺のそばを離れずにおればよい」
「はいっ。ありがとうございます」
「わぁ、広くて素敵なお部屋ですね。お庭も綺麗だし!」
「ああ、なかなか趣があるな」
「早速温泉に入られますか?あの…お怪我の具合はどうですか??見たところ傷痕は綺麗に塞がってるようですけど、まだ痛みが残ってるんですか?」
心配で聞きたかったことを矢継ぎ早に聞いてしまった。
「は?…ああ、そういう話だったな。貴様が気に病むことはない。そんなことより、湯に入るぞ。支度をしろ」
「……え?」
「何を呆けた顔をしている。一緒に入るんだぞ」
「っ、えぇぇ〜??」