第29章 決意
広間に入り、二人で上座につく。
「…皆、大儀である。面を上げよ」
一斉に顔を上げた家老達は、信長の顔を見た後、傍に座る朱里の姿を見て一様に驚きを隠せなかった様子で、広間にざわざわと騒めきが起きた。
「皆、静まれ。
…貴様らの意見は、昨日十分に聞いた。
だが、何度参っても、俺は貴様らの意見を入れるつもりはない」
「御館様、恐れながら、そちらの北条家の姫との婚儀、我らは承服致しかねまする。
織田家にとって益のない縁組でござる。
天下人たる御館様にとっても、もっと釣り合いの取れた、相応しいお方がおられるはず。
何卒、今一度お考え直し下さいますようお願い致します」
「くっ、『俺に相応しい』とは何だ?
貴様らは、事あるごとに織田家、織田家、と言うが、織田の家も元は大した家柄ではない。
俺とて元は『尾張の大うつけ』と呼ばれておった男だ。
貴様らは見かけばかりを気にして、本質を見ようとしない。
……朱里が俺に相応しくない、だと?
何を以てそのようなことが言えるのか?」
「御館様に叛旗を翻した家の姫が正室などと……そのようなことが認められる筈がありますまい」
「知ったような口を聞くでない。
此度の戦は、北条家の家督争いを俺が仲裁したまでのこと。
妻になるべき姫の実家の内紛を、俺が収めて何の障りがあろう?」
「そ、そのような詭弁を弄されるとは……」
「ほう?主君の言葉を詭弁と申すか?」
「………………………」
持っていた鉄扇をわざと音を立てて『バチンッ』と閉じて、ジロリと睨みつけてやると、皆、一斉に下を向いて黙り込んだ。