第29章 決意
翌日、広間にて****
広間の入り口では、信長が、緊張した様子の朱里の手を握り、落ち着かせるように背中を優しくさすってやっていた。
「…大丈夫か?
何か言われて辛いと思ったら、後は黙っておればよい。
俺が上手く収めてやる」
「っ、御館様っ!朱里を同席させるなど……おやめ下さいっ!」
傍らでは、秀吉が焦ったように二人が広間に入るのを必死に止めようとしていた。
「朱里がまた傷つくようなことになれば……取り返しがつきませぬ!」
「…秀吉、よせ。
御館様が決められたことだ」
「光秀、お前は黙ってろ!
御館様っ、御家老達は私が説得致します。
ですから…どうかお考え直し下さいっ!」
頭を地に付けんばかりの勢いで懇願する秀吉に、信長と光秀が顔を見合わせて、どうしたものか、と思案していたその時、ずっと黙っていた朱里が、はっきりとした口調で話しだした。
「……秀吉さん、心配しないで。
光秀さんも…ありがとう。
大丈夫です……信長様、参りましょう」
改めて背筋を伸ばし、前を向いた朱里の顔には、もはや迷いの色は見られなかった。