第27章 再会
家康に連れられて鉄甲船に上がってきた朱里を目にした途端、すぐに駆け寄ってかき抱きたい衝動に駆られる。
秀吉や光秀に囲まれて何事か楽しそうに笑っている、常と変わらぬ姿に安堵する。
「朱里っ、来いっ!」
腕を広げて名を呼ぶと、弾かれたように駆け寄ってきて、この腕に飛び込む愛らしい姿に、狂おしいほどの愛しさが込み上げる。
両手で頬を包み、その艶やかな唇にそっと口づける。
口づければ、もっともっと、と際限なく欲しくなる自分がいて、離れていた時間を埋めるかのように奥深くまで貪った。
「んんっ、ふっ…あぁふ…ぅん」
朱里の唇から甘い吐息が漏れる、それすら他の者に聞かせたくなくて、息が出来なくなるほど激しく求めてしまう。
(これほどまでに欲しいと思えるのは、貴様だけだ。
貴様はどれだけ俺をかき乱せば気が済むのだ…)
「っ、あ〜、ゴホンッ」
秀吉のわざとらしい咳払いが聞こえてきて、唇を離しながらそちらをジロリと睨む。
「御館様っ!場所をお考えください!
水軍の兵達が呆気に取られておりますぞ」
見れば兵達が好奇心丸出しの視線を向けており、将である嘉隆までもがニヤニヤと俺と朱里を見ていた。
「これはこれは……噂以上のご寵愛ぶりですな。
信長様のそのようなお姿を拝見できるとは、いやはや小田原まで来た甲斐があったというものです」
「くくっ、嘉隆、戯言はその辺にしておけ。
秀吉っ!」
「はっ!」
「朱里は我が手元に戻った。
これより攻勢をかける。一斉に大筒を放て」
「……信長様っ、あの、悪いのは兄上なのです。
家臣や領民達は兄上に逆らえないだけで……真に織田との戦を望んではおりませぬっ」
「……分かっておる。案ずるな。
光秀、織田は降伏する者は罰せぬ、と広めよ。
城内に揺さぶりをかけるのだ」
「承知致しました」
(この大軍をもってすれば力攻めで城を落とすことは容易いだろう。
だが、それでは多くの犠牲が出る。
朱里が愛する北条の家臣や領民達、思い出のある小田原の城、それらを出来るだけ守ってやりたい。
朱里が悲しむ顔は見たくはない。
……このような甘い考え、以前の俺では考えられないことだが…
朱里と出会って俺は変わった。
それが良いか悪いかは、俺には分からんがな)