第27章 再会
半蔵殿とともに天井裏から御殿を抜け出し、城の中の抜け道を使って城外へと出た私が見たものは………………
城を取り囲む何万もの軍勢とおびただしい数の旗指物。
黄絹に永楽銭紋が染め抜かれた、織田家の旗指物が、圧倒的な存在感を放ちながらゆらゆらと揺れていた。
(っ、どうしょう??織田と北条が戦を……)
「姫様、家康様の陣へ参りましょう。
詳しいことはそこで……」
半蔵殿に促されて、人目を避けながらひとまず家康の陣へと向かうことにした。
「家康っ!」
「朱里っ!っ、よかった、無事で。
あんたに何かあったら、俺はっ…」
「ごめん、家康、心配かけて…
あのっ、信長様は?ご無事なの?
こちらにいらっしゃるの??」
「落ち着いて、朱里。
信長様は無事。あんたが知らせてくれたから、本能寺で刺客に襲われたけど、大丈夫だった。
今は………あそこにいる」
家康は遠くを見るように顔を上げて、城の先の海の方へと指を指した。
城からも見える穏やかな相模の海
そこに、見たこともないぐらい大きな船が海を埋めるように浮かんでいた。
重厚な黒光りする船体が、城を海上から封鎖するかの如く並んでいて、あまりの威圧感に息を呑む。
「……家康、あれ、何?
普通の船じゃ…ないよね?」
「織田家の誇る九鬼水軍の鉄甲船、鉄張りの船だよ。
まさか水軍まで動かすとは、俺も思ってなかったけど。
……信長様はあれに乗ってる。
行こう、朱里。
あの人、気が短いから待たすと面倒くさいことになる」
「あっ、はい」
信長様に逢える
それだけで心が浮き立って、身体の奥が熱くなる
勝手なことをして迷惑ばかり掛けてしまった
今まさに自分の実家と戦になろうとしている
叛旗を翻した北条家を許して下さらないかもしれない
それでも……一刻も早く愛しい人に逢いたい
この手で触れてその身の無事を確かめたい
今はただ、それだけしか考えられなかった。