第118章 青い花の秘密
夜が明けて、いつもと変わらぬ朝が来る。
朝日が射し込み、部屋の中が次第に明るくなっていく中、文机の上に置かれたままの青い硝子の花が、陽光を受けてキラキラと輝いていた。
(昨日のことが嘘みたい。これからどうなるのかしら…)
いつものように信長の支度を手伝いながらも、先が見通せぬ不安が拭い去れず、どうにも心が落ち着かないでいた。
その時、廊下の向こうから控えめな足音が聞こえた。
「失礼いたします」
障子が開き、秀吉が一礼する。
「御館様。堺より早馬が」
信長は無言で文を受け取り、さっと目を通す。僅かに眉を顰める主君の様子に目敏く反応した秀吉は、気遣うように問う。
「光秀からですか?」
「あぁ」
文には、短くこう記されていた。
『昨夜、宗伯の献上品と同じ意匠の硝子細工が堺の豪商の蔵より盗まれた。さらに、博多と堺を結ぶ廻船が三艘、消息を絶っている。
青き花と海図を狙う者、その正体いまだ掴めず』
「……秀吉」
信長が文を静かに畳む。畳んだ文を秀吉に渡し、不敵な笑みを浮かべる。
「はっ」
「博多から堺までの荷の流れと人の出入りを洗わせろ。近頃俄かに現れた商人、浪人、南蛮人、また反対に姿が見えなくなった者がおらぬか…一人残らず調べよ」
「御意」
秀吉は力強く頷き、足早に部屋を後にした。
障子が閉まる音が響くと、室内には再び静寂が戻る。
「やはり、この花を集めようとしている者が他にもいるのですね」
次々に伝えられる襲撃の報を聞いて、何とも言えない恐ろしさに身を縮める。
「相手が何者かは分からぬが、先を越されるわけにはいかぬ」
「では、信長様も花を…探されるのですね」
「無論だ」
信長は朱里へ視線を向けた。頬を両手で包み、視線を合わせて安心させるように言う。
「貴様は何も案ずることはない。この件には関わらず、いつもどおり過ごしておればよい」
「いえ…私にも何か…手伝わせて下さい」
不安な気持ちを胸の奥に残しながらも、真っ直ぐに見つめてくる黒曜石のような瞳は意思の強さを秘めていた。
「数多ある献上品の中から、この青い硝子の花を私が手にしたのも何か不思議な巡り合わせのような気がして…。だから…この花に隠された秘密を私も知りたいのです」
「朱里…」