第118章 青い花の秘密
「分からぬとは?」
短い問いかけとともに、信長の目が咎めるように鋭くなる。
その威圧感に、宗伯は額に汗を滲ませながら頭を下げた。
「その南蛮船、博多には燃料の補給のために立ち寄っただけで翌日には出航しておりましたもので…詳しいことは分からぬのです」
「素性も分からぬ船から買い付けた品を献上品にとは…貴様も随分と軽率だな」
「も、申し訳ございませぬ!」
宗伯は平伏したまま、額が畳に付くほど深く頭を下げた。
広間には重苦しく冷ややかな沈黙が落ちる。
信長の機嫌一つで己の命運が決まることを、宗伯はひしひしと感じていた。数ある献上品の中からたまたま信長の寵妃の興味を惹いたのがこの硝子細工であったために、全く思いも寄らぬ方向に話が進み、宗伯自身も頭の中が混乱していた。
(よもやこんなことになるとは。商いの話も上手く纏まって、良い方向に進んでいたというのに…)
「まあ、よい」
信長はしばらく宗伯を見下ろしていたが、やがて興味を失ったように視線を外した。興を削がれたように片肘をつき、傍らに置かれた青い硝子の花へと視線を移す。
「分からぬのであれば、今ここであれこれ詮索しても無駄だ」
低く響く声に、宗伯は恐る恐る顔を上げる。
「その南蛮船について思い出したことがあれば、後日でも報告せよ」
「承知致しました」
宗伯は深々と頭を下げる。
信長はそれ以上追及せず、今度は朱里へと目を向けた。
「朱里」
「は、はい…」
「この青い花、しばらく預かっても良いか?」
「それは構いませんが…あの、大丈夫でしょうか?」
「ん?」
「だって…船が次々に襲われているのは、何者かがその花を探しているから…ですよね。危険ではありませんか?」
朱里の不安げな問いに、広間の空気が再び張り詰めた。
信長は青い硝子の花を手に取り、光へ透かすように眺める。
「…危険がないとは言えん。だが…」
信長は硝子の花の中心部に指を滑らせた。
「敵が探しているのは、この花だけではない」
「えっ……」
敵という言葉と信長の確信めいた言い方に、朱里は目を瞬かせる。
「青い花は恐らく他にもある」