第118章 青い花の秘密
信長は紙片を指先で摘まみ、障子から差し込む光に透かした。
「……何かの地図、でしょうか」
朱里もまた、隣から恐る恐る覗き込んでみる。
だが信長は首を横に振った。
「いや、ただの地図ではない」
「……と申されますと?」
宗伯が身を乗り出す。
信長は手にしていた扇子で紙片の上を指し示す。
「海岸線にしては不自然だ。この湾の形も、島の位置も実在する地形と一致せぬ」
「確かに。言われてみれば…そうですな」
宗伯も頷く。その表情は困惑に満ちている。
地図らしき紙片は海を知る商人である彼の目から見ても奇妙な点が多かった。
信長の視線は、紙片の中央に描かれた紋へと移る。
それは円の中に三日月と星を組み合わせたような見慣れぬ意匠だった。月に対するように描かれた星は七つ。
「この紋に見覚えはあるか」
問いかけられた宗伯は、紙片を凝視し、暫くの間考え込む。
やがて何かを思い出したように、さっと顔色を変えた。
「……もしや」
「見たのか」
「いえ…実際に見たわけではなく、噂に聞いたことがございます。南蛮船の船員達の噂です。遠い異国の海で暗躍する組織があると…彼らが用いる印は月と星を描いたものだと」
その言葉に朱里の胸が騒めく。
「異国の海で暗躍する…海賊ですか?」
「真偽は分かりませぬ。ですが、彼らは海を渡り歩き、莫大な財宝や珍品を集めていると。神出鬼没の集団で、いつどこの海に現れるかも分からぬそうで」
信長の口元がゆっくり吊り上がった。
「面白い」
その一言に、広間の空気がぴんと張り詰める。
朱里は思わず息を呑んだ。
(面白い、って…)
普通なら得体の知れない地図や正体不明の組織の話を聞けば警戒するはずだ。けれど目の前の天下人は、まるで新しい獲物を見つけた獅子のように目を輝かせている。
宗伯も同じことを思ったのだろう。
「お、織田様。この話が事実だとしても相手は得体も知れぬ者。危険極まりないかと…」
「だからこそだ」
信長はにやりと口の端を上げる。
「得体の知れぬものを暴くのは愉快であろう」
その声音には微塵の迷いもない。
「宗伯。この硝子細工はどこで手に入れた」
「博多に入港した南蛮船の積荷にございました。珍しい品でしたので買い取り、此度の献上品に」
「その南蛮船の名は?何処の国の船か」
「それが…分からぬのです」
