第118章 青い花の秘密
「宗伯」
信長が呼ぶと、宗伯はすぐに平伏した。
「はっ」
「奪われた硝子細工の中に、同じように印が施された品があった可能性はあるか」
「……ございます」
宗伯は苦々しく頷いた。
「実は船乗りの一人が申しておりました。奪われた品の中には、妙に重い硝子玉や、不自然に厚い板硝子が混じっていたと」
「なるほど。それは他と区別を付けるためかもしれぬな」
信長は青い花を見つめながら静かに笑った。その笑みは獲物を見つけた獣のそれだった。
「面白い」
「信長様……?」
目まぐるしく進む話に付いて行けず、朱里は不安げに呼びかけながら信長の袖を引く。
すると信長は当然のように朱里の肩を抱き寄せた。
「案ずるな」
低く自信に満ちた力強い声だった。
「その花を狙う者がいるなら、俺の前に引きずり出してやるまでだ」
「……!」
「そして、この硝子細工に隠された秘密も暴いてやる」
その場にいた誰もが、信長の言葉に息を呑んだ。信長の瞳に宿る覇気に、誰も意を唱えられない。
宗伯もまた顔を上げ、僅かに目を見開く。
「ですが織田様、相手の正体は未だ掴めておりませぬ。本当に海賊なのか、それとも別の勢力なのか…」
「だからこそ面白い」
信長は青い硝子の花びらを指先で弄んだ。
すると陽の光を受けた花びらが一枚だけ不自然に煌めいた。
「……?」
信長の眉がぴくりと動く。
「どうかなさいましたか」
宗伯が尋ねると、信長は花を掲げた。
「この花びらだけ色が違う」
確かに、他の花びらは澄んだ青なのに、一枚だけ僅かに色が濃い。
肉眼ではほとんど分からないほどの差だった。
「言われてみれば確かに…よくお気づきになりましたね」
宗伯が感嘆の声を漏らす。
信長はそれには答えず、脇差を抜いた。
「信長様!?」
朱里が慌てて声を上げる。
しかし信長は構わず花びらの付け根へ刃先を当てた。
カチリ――
小さな音が響き、次の瞬間…花びらが外れた。
「え……?」
花の内部は空洞になっていた。
そして中から現れたのは、細く巻かれた紙片だった。
「やはりか…この硝子細工はただの飾りではなかったようだな」
信長は紙片を広げた。
そこには見慣れぬ文字と図形のようなものが描かれている。
海岸線のような線。
いくつもの島や印。
そして中央に記された奇妙な紋。