第118章 青い花の秘密
宗伯の口から語られたのは、博多と堺を結ぶ海路で起きている不可解な襲撃事件だった。
荷を運ぶ商船が狙われ、積荷の中からある特定の品だけが奪われる事件が頻発しているという。
「海賊どもの仕業か」
信長が不快そうに言う。
「それが…奪われるのは南蛮渡りの硝子細工ばかりなのでございます」
宗伯の言葉に、朱里は思わず手の中の青い花を見つめた。
「硝子細工だと…?」
「左様。それも不思議なことに、金銀や武器弾薬などは捨て置き、硝子細工だけが優先して持ち去られております」
「金になりそうな品ならまだしも、硝子細工だけを狙うとは妙だな」
日ノ本ではまだ希少な硝子細工とはいえ、海賊達がそれだけを狙うというのは解せない。
「ただの海賊ではない…か」
深く思案するように落ちた信長の低い声に、広間の空気が張り詰めたものに変わる。
朱里は無意識に、手の中の青い花、その繊細な花びらに指先で触れていた。
——硝子細工。
その言葉が妙に胸に引っ掛かって離れない。
「宗伯、その奪われた硝子細工には何か共通点はあるのか?」
「それが……」
信長の問いかけに、宗伯は一瞬言葉を選ぶように目を伏せた。
「奪われた品のほとんどが、南蛮船によって近年もたらされるようになった新しい細工物ばかりなのでございます」
「新しい?」
信長は不審げに眉を顰める。
「以前からあった玻璃の器や酒杯ではなく、珍しい色付きの硝子玉や細工物、鏡のような板硝子などでございます」
その瞬間、朱里の心臓が大きく跳ねた。
色付きの硝子玉や細工物…
まさに今、自分の手の中にあるものと同じ類ではないのか。
朱里の顔がさっと色を失くす。先程までの浮き立った気持ちが一気に冷めていく気がした。
「朱里?」
はっとして顔を上げると、信長の鋭い視線が向けられていた。
「如何した?」
「の、信長様、こ、これ…これも硝子細工ですけど…」
朱里の声は思った以上に小さく震えていた。両手で青い花を包み込むように持ちながら、不安げに信長を見上げる。
信長は黙って朱里の手元を見下ろす。
陽の光を受けた硝子の花は、まるで本物の朝露を宿したかのように青く輝いている。
「確かにそうだな」
信長は落ち着いた声音で答えた。
だがその眼差しは既に、ただの贈り物を見るものではなくなっている。