第25章 罠
朱里と引き離された家康は、予想外の展開に焦っていた。
(まさかすぐに追い返されるとは思わなかった。
迂闊だった。
これじゃあ、城内の様子が分からないし、朱里を無事に安土に戻せるかどうか……。
……それに、朱里の兄のあの目…
朱里と会った時のあの目、妹を見る目じゃなかった。
邪な汚れた感情が目の奥に潜んでいるような…
俺としたことが…なんて失態だっ)
「……半蔵、いるか?」
「……はっ、お側に」
半蔵は徳川家に仕える忍びの者、今回の小田原行きにも秘かに俺と朱里の警護を任せてあった。
いつの間にか音もなく影のように俺の背後に控えている半蔵に、城を睨み据えながら命じる。
「……城内に忍びこめるか?
この城は何か不穏な気配を感じる…
朱里の居場所を探し、城内の様子を探れ」
「はっ、お任せを」
(朱里にもしものことがあったら……大変なことになる)
京にいる信長の怒り狂う顔が頭の中に浮かび、家康は背筋が凍るような心地になるのだった。