第25章 罠
言われた言葉の意味が理解できず、ぼんやりと兄の顔を見つめる。
「……何を、仰っているのですか?
母上は…ご危篤だと…文には、そう書いて…。
それに…城主である父上まで居らぬ、とは??」
「くくっ、父上には隠居して頂いた。この城の主はこの俺だ。
関東一の大国、我が北条家が信長ごときに臣従するなど許せん。
父上には城を出て頂いた…お前の母上も一緒に、城下の屋敷に居られるわ。
……病というのは嘘だ。お前を連れ戻す為の、な」
「何を言って…信長様に…織田家に叛意を示されるおつもりですか??
おやめ下さい!
北条家がいかに大国といえども、織田家とは比べようもない。
信長様に勝つことなど出来ませぬ!
戦になれば、家臣や民が犠牲になるのですよ?」
「くくっ、戦にはならぬ。
信長の首さえ獲れば、織田は崩れる。
既に手は打ってある…奴は今、京にいるのであろう?」
不敵に笑う兄の姿に言い知れぬ不安が押し寄せ、目の前が暗くなる。
「っ、兄上、何故それを?
信長様に何をするおつもりですか??」
「………お前はすっかりあの男に骨抜きにされているようだな。
っ、こんなところに痕など付けられおって…」
腹立たしげに言いながら、兄は私を壁際に押し付けて首筋の紅い痕にいやらしい手つきで触れる。
「っ、いや!触らないで!」
兄の手を振り払おうと伸ばした手を逆に掴まれて、指を絡めとられる。
「……兄上、何を…?」