• テキストサイズ

永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


内裏の奥――すなわち禁中の最も深きところは、幾重にも重なる御簾と几帳に隔てられ、外界の喧騒から切り離された静寂の空間であった。

紫宸殿や清涼殿といった表の儀式の場を更に奥へと進むと、檜皮葺の屋根の下、白木の柱と艶やかな板敷が続く。廊を渡るごとに光は和らぎ、庭の松風や遣水のせせらぎだけがかすかに届く。几帳には季節の文様を染めた絹が掛けられ、御簾はほの暗い室内に涼やかな色を添えていた。

常日頃なら会話を楽しむ女房達の華やいだ声が聞こえたり、雅楽の澄んだ音色が広がったりしているのだが、今はそういった雅やかな雰囲気は一切なかった。
門外の喧騒もここまでは聞こえてこない。静けさがむしろ異様に感じられるほどだった。


「いい加減、ご決断下さいませんかねぇ」

「ぶ、無礼であろう!臣下の分際でその物言い…控えよ、元就!」

「臣下だと?俺は生まれてこの方、誰にも仕えたことはねぇぞ。己の主は己自身だ。身分なんてもんはてめぇらが勝手に決めたもんだろ?そんなもん、従う理由がねぇな」

「なっ、なんと不敬な…」

「嘆かわしい…武士が内裏を好き勝手にするなぞ、前代未聞や…」

「まったく…こんな暴挙が許されてよかろうか!」

(はっ…コイツら、抗う力もないのに口だけは達者だな)

色めき立って声を荒げる公家達を心の中で毒突きながら、元就は周りに冷ややかな視線を向ける。
評定の間に集められた公家衆を取り囲むように武装した毛利兵が周りを固めている。
清廉な場に似つかわしくない具足の擦れ合う耳障りな金属音が響く中で、御簾に隔たれた奥の御座所はしんっと静まり返ったままで衣摺れの音さえ聞こえてこない。
そこには帝が座すはずだが、騒ぎ立てる公家衆を嗜めることもなく沈黙を守ったままである。

(このままだんまりじゃ埒が開かねぇな。もっと脅してやるか)

「今すぐ決めろ。さもないと京の町ごと焼き尽くすぞ」

冷ややかに言い放つと、兵に合図を送り松明を掲げさせた。

「ひっ…」

赤々とした火の粉が爆ぜる松明を間近に見た公家達が表情を引き攣らせて後ずさる。

「お、主上…」

御簾の奥へ助けを求めるように悲壮な声を上げる者もいる。


「待て、元就」

緊迫した場に発せられたのは、凛とした気品のある声だった。


/ 1974ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp