第115章 紀州動乱
「申し上げます!」
武将達が退出しようとしたその時、近習が天幕へと駆け込んで来る。
その場に立っていた信長と居並ぶ武将達を見て一瞬驚いた表情を見せた近習の男だったが、すぐさま信長の足元へと跪くと、懐から一通の書状を恭しく取り出した。
「御館様、京より明智様の使者がこれを」
「光秀が…京からだと?」
内乱鎮圧のため織田が全軍を挙げて出陣することは朝廷にも伝えてあった。この戦が織田方に大義があることを世に知らしめるため朝廷の許しを得て出陣するという形を取ったからだった。
(光秀が今、京にいるのは俺が命じたからなのか…?)
怪訝に思いながらも文を受け取り、皆が見守る中で中身を改める。
無言で読み進めるうち、信長の表情が次第に怒りに満ちたものに変わっていき、秀吉ら武将達は固唾を呑んで見守る。
「くっ……」
文の内容は全くもって予想外だった。
内裏が元就率いる毛利軍に包囲され、帝が退位を迫られていること。
朝廷は信長に救援を求めるべく戦場へ急使を送ったが使者が戻らなかったため、関白近衛前久自らが包囲を潜り抜けて大坂城へ赴き救援を求めたこと。
大坂に居た光秀の軍勢が京へ進軍することになり、勅命により朱里も京へ同行することになった。
信長にも速やかに京へ進軍し、元就を討つべし、との綸旨が下されているとのことだった。
(元就が京を襲っただと?裏を掻かれたということか…まぁよい、どこであろうと何度でも討ち果たしてやるだけだ。しかし勅命を盾に俺の許しもなく朱里を京へ連れて行くとは、朝廷もふざけた真似をしてくれる)
戦に勝利した喜びも束の間、自分の預かり知らぬところで朱里の身を人質のように扱われたことが腹立たしくなり、思わず手にした文を滅茶苦茶に引き裂いてしまいたい衝動に駆られる。
「御館様、光秀は何と?」
「秀吉、全軍に伝えよ。大坂へは戻らず、このまま京へ進軍する」
光秀からの文を秀吉に向かって乱暴に押し付けると、信長は迷いのない足取りで歩き出した。
文に気を取られた秀吉が制止する間もなく、信長は勢いよく天幕を出る。
天幕を出た信長を出迎えたのは、光り輝く日輪の朝の光とともに、主の復活を待ち侘びていた兵達の地鳴りのような大歓声だった。