第115章 紀州動乱
敵方が敗走し次第に静けさを取り戻しつつある戦場で、織田の本陣そこだけが異様なほどの重苦しさに包まれていた。
「納得いかねぇよ。勝敗が決した後に大将を狙い撃つなんて卑怯だろ!」
「コソコソ隠れて鉄砲で狙うなんざ、武士のやることじゃねぇ!」
「正々堂々戦って勝ったのは俺達だろ?それなのにこんな…あんまりだ」
「相手が一枚上手だったってことだ。油断したのは俺らの方だろ」
「なっ…お前っ…」
信長が運び込まれた天幕の前では、いつの間にか集まってきた足軽達が口々に憤りの声を上げてた。
悔しがって地団駄を踏む者、怒りの声を上げる者、反対に声も出せず悲愴な顔で立ち尽くす者など、様々な感情が入り乱れて辺りは騒然となっていた。
「お前ら、静かにしろ。御館様の御前だぞ」
騒ぎを聞いて駆け付けた秀吉は集まった足軽達の間に割って入り声を荒げた。今にも暴動が起きそうなほどに、辺りは張り詰めた空気に満ちている。
「皆、落ち着け。騒ぎを大きくするな」
「秀吉様!御館様は…御館様はご無事なのでしょうか?」
「落ち着いてなんていられるかよ!御館様にもしものことがあったら織田軍はどうなるんだ…?俺らはこれからどうしたら…」
「おい、滅多なことを言うな。その口、つまらねぇ戯言なんか二度と言えねぇようにしてやるぞ」
「ひぃっ…」
「落ち着けよ、秀吉。お前が苛立ってどうする?上のもんが動揺を見せたら下の奴らは余計に不安になるだけだ」
普段穏やかで面倒見の良い秀吉が鬼の形相で足軽達に詰め寄るのを政宗が止めに入る。
「っ…すまん。分かってはいるんだが、どうにも感情が抑えられなくてな」
「いや、それは俺も同じだ。じっと待ってるだけじゃ考えが悪い方にばかり回る。全く…この状況は良くねぇな」
信長の意識が戻らず戦場に留まったままの織田軍には重い空気が立ち込めていた。
箝口令を敷き、内からも外からも情報を厳しく遮断しているが、詳細を知らされていない足軽達の間には不安が広がりつつあり、武将達の間にも次第に焦りや苛立ちの感情が見えてきていた。
「これ以上ここに留まり続けるのは得策じゃないな。長引けば兵達の士気が下がる。くそっ、御館様が目覚められさえすれば…」
秀吉は悔しそうに唇を噛む。