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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


織田の本陣から一町ほど離れた林の中で、孫一は息を潜めてその時が来るのを待っていた。
一向宗門徒の加勢により一時は織田軍を包囲する勢いを見せた味方の兵も今では散り散りになって戦場を逃げ惑っている。
敗戦を悟った孫一もまた、配下の者に各々戦線を離脱するように命じた後、自身は一人この場に残っていたのだった。

(恐らくこれが最後の機会になる。しくじりは許されん。この手で必ず仕留める)

確実に急所を撃ち抜くには些か距離があるが、己の身を安全な場所に置き秘かに標的を狙うにはここが最善の場所であった。多少の距離など気にならないぐらいには自らの腕にも自信がある。

見れば、織田の本陣には黄絹に永楽銭の紋が染め抜かれた旗がいくつも揺れている。
利に聡い信長は、武将でありながら商いにも精力的で、銭で多くの兵を雇い、大量の鉄砲を買い入れることで、それまでの戦い方をがらりと変えた男だった。
激戦の末、死屍累々となった戦場で銭の旗だけがゆらゆらと揺れているのは、何とも皮肉な光景ではある。

(来たか…信長)

一際目を引く派手な陣羽織を翻して颯爽と歩く信長の姿を捉えた瞬間、孫一の目がカッと見開かれる。
すぐに火縄銃を構え、照準を合わせる。
既に弾込めは終えており、火縄への点火も出来ている。火蓋を切れば後はいつでも撃てる状態であった。
火縄銃は至近距離での狙撃ならば甲冑を撃ち抜くほどの威力があるが、今回は遠方からの狙撃である。確実に打撃を与えるためには狙いはより正確に定めなければならなかった。

信長は歩みを止めることなく、付き従う近習に指示をしながら本陣の方へと向かっている。
戦の勝敗が決し、これから撤収が始まるのだろう。本陣の周りは人の出入りが激しく、騒々しい様子なのが遠目でも分かる。
機会は一度きりだ。万が一外しても二発目は撃てない。
孫一は銃身を固定し、信長の甲冑の胸当ての僅かな隙間に狙いを定める。
息を殺し、引き金にかけた指先に全身の神経を集中させる。
数多の戦場を潜り抜けてきた孫一であるが、引き金を引くこの瞬間はやはり緊張するもので、時が一瞬止まったような心地になる。

次々と指示をしながら立ち止まることなく進んでいた信長の足が止まる。
この距離だ。気付かれたはずはないだろうが、信長の視線はこちらの林の方へと向いている。

反射的に引き金を引いていた。



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