第115章 紀州動乱
「私はそこまで弱くはありません!心配し過ぎですよ、信長様。秀吉さんじゃあるまいし…」
「お、おいおい、何でそこに俺が出てくるんだ…」
信長様の傍で黙って控えていた秀吉さんが情けない声を出す。
「こほんっ、だがしかし御館様の言うとおりだぞ、朱里。倒れたりしたら大変だ。休める時に休んでおきなさい」
「秀吉さんまで…」
二人から同じように心配されて、何とも言えなくなってしまう。
返す言葉に困っていると、真面目な顔をした秀吉さんは今度は信長様の方へ向き直ってきっぱりと言う。
「……と、これは御館様にも申し上げたいことではあります。少しお休み下さい。御館様が倒れられたら元も子もありませんので」
眉間に皺を寄せて深刻そうに言う秀吉さんからは本気で信長様の身体を案じていることが伝わってくる。
それと同時に今この時、信長様に万が一のことがあってはならないのだという緊迫したものも感じられた。
「貴様に案じられるほど俺は柔ではないが…そうだな、朱里が休むと言うのなら俺も休んでやってもよい」
「ええっ…何ですか、それ??」
「ははっ…さすがは御館様だな、朱里」
「もぅ…笑い事じゃないよ、秀吉さん」
「いいじゃないか。せっかくだし、今日は二人でゆっくりしたらどうだ?御館様、この後は特に急ぎの報告はございませんので…」
「……だ、そうだぞ?朱里」
「信長様まで…」
(急に二人で休めだなんて…信長様がお休みを取って下さるのは嬉しいけど)
理由はどうあれ、久しぶりに信長様と過ごせるのは嬉しかった。
一人でいると良くないことをあれこれ考えてしまい、気分が塞ぎがちだったが、信長様のお傍にいられるというだけで気分が高揚するのだから不思議だ。
二、三打ち合わせをして秀吉さんが退出すると、執務室に信長様と二人だけになった。
「さて…急に休めと言われてもな」
「そうですね」
「身体が辛いなら横になっても良いぞ?貴様が望むなら膝枕でも何でもしてやろう」
「ふふ…ありがとうございます。でも本当に大丈夫です。日差しが強い日中に外に出るのはきついですけど、部屋の中で過ごす分には普通に過ごせていますから。言っておきますけど…四六時中寝込んだりしてるわけではないですよ?」
どうやら大分心配され過ぎているようなので、何とか誤解を解いておかなければと思い、必死に言葉を連ねた。