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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


紀州への視察から戻って以来、表面上は何事もなく穏やかな日々が続いていた。
鷺森の蓮如は相変わらず読経三昧の日々を送っており、彼の地に近付く輩も見受けられなかった。各地に散らばる一向宗門徒たちにも目立った動きは見られない。
雑賀の里は引き続き光秀に監視をさせているものの、孫一は用心深い性格らしく、現状では蜂起の決定的な証拠は見つけられてはいなかった。

「……報告は以上です、御館様」

どことなく不満げな色を帯びた秀吉の声に、信長は閉じていた目をゆっくりと開けた。
持っていた鉄扇をパチン、パチンっと掌に規則的に打ち付けていたのを止めると、ふぅ…と大きく息を吐く。

「進展は特になし、か」

「はっ、紀ノ湊に異国からの荷が多数着いているのは事実のようですが、それがどのような荷で、雑賀からどこへ流れているのか、そこまではいまだ掴めず、詳細は分かっておりません。孫一の根城もいまだ突き止められてはおりません。近頃は光秀からの連絡も途絶えがちで…あの野郎、どこで何してるかぐらい逐一報告しろってんだ!」

「落ち着け、秀吉。彼奴からの連絡が途絶えるのはいつものことだ」

思わず声を荒げる秀吉に対して信長は常の如く冷静で、その口元には薄っすらとした笑みさえ浮かんでいた。

「はっ、失礼を致しました」

「紀ノ湊へ着いている荷はおそらく武器弾薬の類だろうが、堺を避けて異国と大きな商いをする伝手が孫一にあったとは思えん。我らの目を欺いて裏で動いている何者かがおるのであろう」

「それは…」

大量の武器弾薬の類が取引されているとなると、その向かう先は大戦に他ならない。
泰平の世を揺るがす大きな戦が再び起ころうとしているのだ。

「雑賀だけではないとすれば一体誰が…やはり一向宗…顕如が動いているのでしょうか?」

結局、信長が紀州で顕如に会うことは叶わなかった。
和睦したとはいえ、先の戦は織田、本願寺、双方に容易には消えぬ深い傷痕を残した。同胞を失った顕如の信長への怨みの念はこの先も消えることはないのだろう。

(多くの犠牲を払ったのは何も本願寺に限ったことじゃない。御館様だって数多の身内や家臣達を失っておられるのに…)

戦とはそういう理不尽なものだと言ってしまえば身も蓋もないのだが、顕如の信長への怨みの深さを知れば知る程に、秀吉はやるせない気持ちになるのだった。


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