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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


男の名は雑賀孫一という。
かつて鉄砲を武器に信長と激戦を繰り広げた男は、雑賀党の分裂に伴い雑賀の里を追われた後、行方が分からなくなっていたが、再びこの地に舞い戻っていたのだ。

信長の紀州征伐後、雑賀の里は織田家に降ることを受け入れた保守派と徹底抗戦を主張する強硬派との間で激しい対立が起こり、その混乱の中で孫一は姿を消した。
本願寺に味方して信長に強硬に抗った孫一が表舞台から消えたことで結果的に雑賀は降伏を受け入れ、紀州は織田家の統治下に置かれることとなった。

織田家の監視下に入った紀ノ湊は以前のように異国船を自由に引き入れることができなくなり、武器弾薬の取引も厳しく制限されていたのだが、舞い戻った孫一の手引により密かに荷が着くようになっていた。

「おいおい、今日の荷はこれっぽっちか?雑賀水軍も大したことねぇなぁ!」

真夏の太陽の如く陽気な声は、どことなく無遠慮な嘲りを含んでいる。
孫一は不機嫌そうに微かに眉を顰めると、声の主の方へゆっくりと頭を巡らせた。

「ここでの商いについて、お前にとやかく言われる筋合いはない」

「はっ!その商いができてるのは誰のおかげだと思ってる?大坂に勘付かれる前にさっさと荷を集めろ」

獰猛な獣のように吠えた男は、孫一と同じく浅黒く日に焼けた肌を晒していたが、真夏だというのに何故か両手には汚れのない真っ白な手袋を身に付けていた。

「命令するな、元就。我らは誰の命にも従わぬ。雑賀党は雇われれば何処(いずこ)の戦場へも出向くが、真に従う主君は持たぬ自由の民だ」

「自由ねぇ…」

元就はうんざりしたように顔を顰めてみせる。味方がいとも容易く敵になるような裏切りが日常のこの乱世において、誰にも従わず自由に生きることなど夢物語にしか思えなかった。
孫一は紀州を織田家の支配から取り戻すため、雑賀の民の自由を取り戻すために元就の誘いに乗ったのだろうが、元就からすればそうして掲げられたいかにも高尚な大義というものも、人の命が容易く奪われてしまう戦という殺し合いの前では色褪せて見えるのだった。

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