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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


雲ひとつない青空の下、揺れる波飛沫が太陽の光を反射して眩しいぐらいにキラキラと輝いていた。
潮の香りを孕んだ風が男の浅黒く日焼けした肌を撫でる。
夏真っ盛りの強い日差しが照りつける中、桟橋の先に立ったその男は着物の袖を捲り上げて鍛えられた逞しい両腕を晒していた。

桟橋の先に停泊した南蛮船の甲板では、荷下ろしのために水夫たちが忙しなく立ち働いている。

「おい、早くしろ!もうじき次の船が来るぞ」

「気を付けろよ。慎重に下ろすんだ」

荒くれ者の海の男たちが大声で言い合いながら次々と荷を下ろしていくのを男は鷹のような鋭い目で睨んでいたが、徐ろに下ろされた木箱のうちの一つに近づくと無言のまま中身を確かめる。

「頭領(かしら)、どうです?こいつはなかなかの良品ですぜ」

水夫の一人が男の手元を覗き込みながら気安げな口調で言う。
木箱の中には、明からの貿易品である生糸や絹織物の類いが入っており、水夫の言うとおり見るからに高級そうな品であったが、男は躊躇うことなく箱の中へと手を伸ばし、無造作に生糸の束を掴み上げた。

ーカタッ…

男の指先が箱の底に触れ、底板が小さな音を立てて外れる。
外れた底板の下にはもう一つ空間があり、そこには別の品が納められていた。
木箱は二重底になっていたのだ。
男は箱の底に納められていた品を見て、口の端に満足げな笑みを浮かべる。

「なるほど…こいつは思った以上の品だな」

木箱の底には『硝石』と呼ばれる鉄砲の弾薬となる黒色火薬の原料が入っていた。
この時代、硝石は国内での製造が難しく、主に明の国との貿易によって調達されていたため非常に高価なものだった。
更には信長が堺を直轄地とし、実質的に天下を治めるようになってからは、諸大名が信長の許可なく異国と武器弾薬の取引をすることが大幅に制限されていた。それゆえに堺以外の港で硝石が荷揚げされること自体が珍しかった。

ここ紀ノ湊も信長の紀州征伐以来、雑賀衆が往時の勢力を減退させてからは賑わいが途絶え、異国の大型船が出入りすることも少なくなっていたのだが、ここ最近は少しずつ港の様相が変わってきていた。

「もう少し一度に数が欲しいところだが、大坂の…信長の目を欺くにはこれ以上は厳しいだろうな」

停泊した船からは既に荷下ろしが終わっているのを見て、男は悩ましげに一つ溜め息を吐いた。

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