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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


「御館様」

寺を出た信長にそっと近付き、その背後を守るように付き従ったのは光秀だった。
此度の紀州行きに信長は僅かな護衛しか付けさせず、供は光秀のみとした。
その光秀さえも寺内に同行させなかったのは、信長の余裕の表れであり、本願寺側に対して敵意がないことを示すためでもあった。

「如何でしたか?」

「何とも言えぬ…といったところだな。俺への怨みの念は変わらず持ち続けているようだが…」

「たとえ再び蜂起したとして本願寺だけで織田を倒せるなどとはあの男も思ってはおらぬでしょう。もはや怨みだけで圧倒できるほど織田は小さくはない」

「雑賀の方はどうであった?」

「あちらも表面上は鳴りを潜めているように見えますが…やはり紀ノ湊の荷の出入りが増えているのは間違いないかと」

紀州の海の玄関口である紀ノ湊は、川幅が広く、大きな海船が入ることができるほどの水深もある自然の良港であった。
遠方より海を渡って来た異国船の荷物はここで川舟に積み替えられて紀の川を遡って各地へと届けられる。
信長による紀州征伐以前、紀ノ湊の交易を支配していたのは雑賀衆であり、この港を通じて異国から鉄砲や硝石などを大量に仕入れていたが、紀州が織田家の監視下に置かれてからは、港は往時ほどの賑わいはなく、取り扱う荷も減っていた。
上洛して畿内を押さえた信長は堺の港をいち早く取り込んで異国と日ノ本との交易を支配した。堺の商人達に対してはこれまでどおりの自治を認め、自由な商いを保証しながらも、武器、弾薬の売買に関しては逐一信長へ報告することを約させた。これにより大名達は信長の許可なく異国から武器を買い入れることができなくなったのだ。

異国船との交易は平戸や長崎といった九州の港でも盛んに行われているが、畿内においては信長の支配が及ぶ堺が中心となり、雑賀衆の衰退ともに紀ノ湊に着く異国船も次第に減っていった。

ところがここ最近、紀ノ湊に異国からの荷が頻繁に上がっているという。
天下布武が成し遂げられ、日ノ本が争いのない世となっても、領主間の小さな諍いや民百姓の一揆などは未だ完全にはなくならない。
始まりは小さな諍いであっても、武器や弾薬が潤沢に供給されればやがては大きな戦になりかねないことは十分に考えられることなのだった。

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