第23章 上洛
安土を発って、琵琶湖岸を通る浜街道を西に進む。
安土から京までを結ぶこの街道は、安土に城を築いた折に命じて整備させたものだ。
京までは琵琶湖を船で渡れば半日で入ることが可能であるが、此度の上洛はある程度の軍勢を率いているため、馬で進む。
多数の人馬が行き来できるように道を広げて、街道沿いを整備することで人の往来が盛んになり、市が開かれ、街が栄える。
戦の際には、整備された道があれば数万の軍勢が速やかに移動でき、兵站の確保も容易になる。
此度の上洛の目的は本意ではなかったが、京とその周辺の最近の様子をこの目で確認できることは役のあることだった。
「御館様、間もなく京への入り口、粟田口でございます。
今宵の宿は本能寺にて。
……光秀も夜には合流できるかと……」
秀吉が馬を寄せつつ声をかけてくるのを聞きながら、上洛に先駆けて京へ向かわせた光秀からの文の内容を思い起こす。
「……官位の件は、俺がいずれの職も受けぬ代わりに、貴様ら重臣らの昇任を願い出るつもりだ。
光秀にも、その旨を公家どもに根回しするように命じてある。
……光秀からの文では、今のところ上手く交渉できているようだ。
縁談の件は……明日にでも近衛殿に会って、直接話を聞く必要があるな」
「はっ、近衛様にはすぐに使者を立てます」
京へは軍勢全てを連れては入洛できないため、上洛中は最小限の人数で本能寺に滞在する。
秀吉のこと、警備に抜かりはないであろうが、刺客にも注意しなければならん。
全く京とは面倒なところだな、と秀吉に気付かれぬように秘かに溜め息をついた。